「文化功労者」は、文化の向上や発達に関して、特に功績のあった人を顕彰する国の制度で、毎年15人程度が認定されている。昨年、草間彌生が受章した「文化勲章」は文化功労者のなかから選ばれることから、文化功労者は文化勲章に次ぐ名誉とされている。
平成29年度(2017)文化功労者に選ばれた杉本博司は1948年東京生まれ。写真をはじめ、彫刻、インスタレーション、演劇、建築、造園、執筆などその活動は多岐にわたる。代表作は「海景」、「劇場」、「建築」シリーズなどで、近年では東京都写真美術館のリニューアル開館記念展「ロスト・ヒューマン」展(2016)で文明の終焉を提示したことが記憶に新しい。
また、2008年には建築設計事務所「新素材研究所」を設立し、IZU PHOTO MUSEUM(2009)、MOA美術館改装(2017)などを手がけたほか、2017年10月には文化施設「小田原文化財団 江之浦測候所」をオープンさせ、大きな話題を呼んだ。
これまでの主な受賞は、毎日芸術賞(1998)、ハッセルブラッド国際写真賞(2001)、高松宮殿下記念世界文化賞(絵画部門)(2009)などで、10年には秋の紫綬褒章を受章。13年にはフランス芸術文化勲章オフィシエを叙勲。
今回の文化功労者選出について、杉本は以下のようにコメントを寄せている。
この度、文化功労者として顕彰されることは光栄のいたりでございます。私は成人してからのほとんどの時間を海外で過ごしてまいりました。その間、日本文化がいかに日本以外の文化に比べて特殊であるかということを身に沁みて感じ、またそのような環境のもとに生を受け、幼少期から青年期の多感な時期を過ごせたことを有り難く、また誇りに思ってまいりました。私は日本人として、海外の人々からの日本文化に関しての様々な質問に答えてまいりました。いわば日本人の日本に関する説明責任を果たしてきたつもりでございます。今世界は成長の臨界点に達し、成長と環境破壊との矛盾になす術を持ち得ていません。私は日本文化の特殊性は、その豊かな自然に囲まれて過ごした縄文の1万年によるのではないかと考えるようになりました。文明化とは森を切り自然を壊すことから始まります。古代の日本人は森を壊すことを禁じ、自然界に潜む神々と交信する技術を学びました。その時代に育まれた感性が今の日本人の血にも脈々と流れています。これからの難しい世界を導くことのできる力は、そのような感性の内に見出されるのではないか、自然と共生することのできる文明、それは日本人の感性の中にあると私は思います。文化功労者として、これからも国威発揚を文化を通じて行っていく所存でございます。
なお、文化功労者の顕彰式は11月6日、東京・虎ノ門のホテルオークラ東京で行われる。