写真フェアで広がるアートフォトの可能性
──今回のフェアは、芸術写真の普及や日本国内のアートフォトシーンにどのような影響を与えるとお考えですか?
高橋 以前、「東京フォト」や「代官山フォトフェア」といった写真フェアが開催されていました。ですので、写真が美術作品として販売され、所有できるものだという認識はある程度浸透していると思います。しかし、これらのフェアが終了したことで、現在はギャラリーに足を運んだり、実際にアーテイストと知り合わなければ作品を購入することができません。作家と直接知り合う機会も減少しています。SNSでつながることも可能ですが、まだまだハードルが高いのが現状です。そこで、フェアのように多くのギャラリーが一堂に集まる広がりのある場で作品を購入できる機会を提供することが重要だと考えています。再び写真のフェアを開催することで、写真がコレクション可能なものだと再認識してもらいたいです。
また、日本国内でフェアを開催することで、日本に作品を残すことが可能になります。エディション数が減少するトレンドのなか、日本に作品が残らない懸念があります。そうした背景も考えながら、アーティストへの還元を図りたいと思っています。
日本の戦後写真は早くから海外で高く評価され、主要な欧米の美術館や企業、プライベートコレクションにも多くの日本写真が収蔵され、小規模ながら国際市場が存在しています。そうした状況は日本ではあまり知られておらず、写真の市場評価はコンテンポラリーアートに比べて低いままです。それは非常にもったいないことです。
写真の定義は2010年代半ば以降に拡大され、その多様性や多面性はコンテンポラリーアートに広く汎用され、そうしてつくられた作品はコンテンポラリーアート市場で高い価格でやりとりされています。このことは写真が海外だけでなく、国内でも欧米に匹敵する競争力を持つ市場をつくり出すことが可能であることを示すもので、T3 Photo Asiaがそのグラウンドになることを大きく期待しています。
──千葉由美子(ユミコチバアソシエイツ代表)
キム 今回のフェアの大きな特徴のひとつは、フェスティバルとフェアを融合させた点です。さらに、新たな才能をサポートする特別プログラムも用意しており、これが新しいコレクターの創出につながります。新たなコレクターが増えることで、アートや写真の新しい創造を支援できるようになります。私たちは数多くの可能性とエキサイティングな作品を発見し、展示し、コレクターや来場者にその瞬間を楽しんでいただきたいと考えています。
また、「Discover New Asia」では、ベルリンを拠点とするベトナムのアーティストであるヒアン・ホアンや、ニューヨークを拠点とする台湾の写真家ジャン・ヨウイを招待しました。彼らはグローバルに活躍しており、私たち以上に国際的な視点を持っています。こうした文化のダイナミックな交流やエネルギーを東京という場で集め、楽しんでもらいたいと思っています。この流れを継続し、次回のエディションではさらに多くのアジアの写真家やギャラリーを招きたいと考えています。
──知られざる才能を国内のオーディエンスに紹介することの意義は大きいですね。
高橋 そうですね。とくに韓国の写真家については、知られている名前は限られており、まだまだ多くの才能ある作家がいます。歴史的な部分についてもある程度理解されていても、現代の状況はまだまだ知られていません。今回、キムさんが選んできたアーティストたちは非常に新鮮で、現代のアジアでこんなことが起こっているんだと感じさせてくれます。その両面を同時に見られるのはとても刺激的で、今後、日本でも韓国やほかのアジア諸国の写真家の展覧会がギャラリーや美術館で開催されるようになることを期待しています。
──実物を鑑賞できるのも大きな魅力ですよね。芸術写真を鑑賞者の方々にどのように楽しんでいただき、その魅力をどのように伝えていくお考えですか?
高橋 写真といえば、家族や友人の写真がもっとも身近ですよね。ですから、多くの人が写真の楽しみ方をすでに知っています。ただ、それが「美術」や「表現」という言葉になると、少し難しく感じる方も多いのではないでしょうか。しかし、フェアのような場で実際に作品を見て、その裏にあるコンセプトをギャラリーのスタッフや作家から直接聞くことで、写真の新しい楽しみ方を発見できると思います。写真はカメラやレンズといった工業製品を通じてつくられる美術なので、誰にでもできるところが魅力ですが、同時に美術作品として理解するのは少し難しい面もあります。作品についての解説をその場で聞ける環境がフェアの大きな魅力です。ぜひ積極的に質問していただきたいですし、今回はメディウムを実験的に使った作品も多く出展されているので、「これも写真なのか」と驚きと発見があると思います。