2022.3.11

【DIALOGUE for ART vol.3】理性先行と感性先行のふたりが刺激を与え合い、たがいを補完する

「OIL by 美術手帖」がお送りする、アーティスト対談企画。京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)と同大学院の同期生で、プライベートでもパートナーである小谷くるみと山本捷平は、いつもアートのことを考え、アートについて話しているという。3日前に入居したばかりの埼玉県のアトリエで話を聞いた。

文・写真=中島良平

アトリエでの山本捷平(左)と小谷くるみ(右)
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──まず京都造形芸術大学で知り合った頃の話からお聞かせください。 

山本 AO入試の時点で知ってはいて、1回生の頃はひたすら与えられた課題をこなす日々でした。僕たちはもともと油画コースで、小谷が2回生で立体造形を行う総合造形学科に一度転科して、3回生で戻ってきてまた話すようになりました。おたがいプロの作家になりたい意識はあって、でも大学では与えられた課題をこなす日々で違和感があったので、現代美術のことを少しずつ知り、インプットしたものを相手に話しながら自分でも理解を深めていくようになったのが3回生の頃ですね。 

小谷 3回生のときに、現代美術は歴史や政治などあらゆる要素が絡んで作品のコンセプトができあがっているんだということに気づいて、積極的に言語化するようになりました。学部生のときはひたすら試作をして、試行錯誤のような段階で、大学院でようやく思考が明確に出てきて作品化されていった印象があります。山本はすごくたくさん試作をつくるんです。その一つひとつが「絵画であること」をすごく意識した作品で、これだけ絵画のことを考えて絵画をつくろうとしている人っているんだ、と思ったことをよく覚えています。

山本 たしかに小谷とは逆で、小谷は立体的な表現も取り入れてたし、フレキシブルにアウトプットできる作家で、僕はどちらかというと制作前から自分に課題を持たせて計画的に制作するタイプ。そこで失敗したらそれをハプニングとして吸収するけど、小谷はひたすら何かを見て、感じて、発見があったらそこから恐れずに自分の表現を進めるタイプというか。 

山本捷平
小谷くるみ

小谷 私は素材を見たときにイメージが湧くから。「これ絶対カッコいい!」みたいな感じでひらめくイメージがあって、でもそれだけではつくれないので、そのイメージが浮かんだ段階でもう一度素材や制作方法を練り直す。大体はイメージとともにコンセプトも浮かんでいるので、コンセプトに沿ってあらゆる選択肢を試していきます。細かい擦り合わせを重ね、何年もかけてじっくりゆっくりできあがる作品がほとんどです。

山本 アプローチがそういう意味で真逆だけど、この世に残っている作品というのは、感性、感覚だけで天から降ってきたように生まれるものではないということに気づき始めて、いろいろと共有できたのかもしれない。歴史的な文脈とか政治などの要素があらゆる角度から盛り込まれて、現在にあるべき作品が現代美術なんだとわかり、おたがいが受けた刺激をそれぞれが別の角度から受け止めて、共有するようになった。 

──どのような作家から学んだり刺激を受けたりしましたか。 

小谷 ふたりが絶対にはずせないところでいうと、デュシャン、リヒター、村上隆さんの3人にはすごく影響を受けています。作家って、内省的なことだけではやっていけないんじゃないかと思えたときに読んだのが、村上さんの『芸術起業論』(幻冬舎、2006)と『芸術闘争論』(幻冬舎、2010)だったんです。どういうプロセスで制作すればいいのかがわかりやすく書かれていて、自分のなかでボヤッとしてものを埋めてもらえたという感覚があります。 

「私は河口龍夫さんやアンディ・ゴールズワージーのような立体や空間作品の作家からも影響を受けています」と小谷

山本 現代美術の片鱗みたいなものを見たのが村上さんの本だった。世界でこういうことが起こっていて、人類としてどう受け止めるべきかという問題や、そういうことに対して僕たちは日本人としてどう立ち向かえるか、その先にどういう未来を描けるか、アーティストにはそういう姿勢が求められるということを村上さんから学びました。

小谷 あなたはそれに加えて絵の描き方も影響受けてるもんな。 

山本 村上さんはひとつのロールモデルとしています。絵具の混ぜ方、リサーチの仕方ひとつまで調べて知ったうえで、じゃあ僕ならばどうするかを考える。世界的な作家に追いつくためにどうするか、超えるためにどうするかを考える指標として見させてもらってます。 

新しいアトリエ。もとはお菓子の製造所兼住居だったような痕跡が見られたという
機材も水も自由に使える制作環境を求め、出会った物件

──大学院を修了したあとは関西で作家活動を続けて、つい先日、関東に拠点を移したんですよね。 

山本 関東に拠点を移したいと強く思っていたわけではなく、色々な偶然が重なったんです。僕は関西の実家で、庭で雨ざらしみたいな環境で制作していたので、広い室内の制作スペースがほしいと思っていました。ただ、研磨の機械などを使うので音が出ますし、水も使える環境となると住宅街ではダメだし、かといって大きな工場跡だとふたりでは予算が厳しい。そういうタイミングで、おたがい大学院を修了してシリーズとしてかたちになった作品も発表できて、彼女は大阪のギャラリーノマルで個展も終えましたし、僕もこの3月から東日本橋にオープンするRitsuki Fujisaki Galleryという新しいギャラリーに所属することが決まりました。そこで関東でアトリエを探すならどういう場所があるか、と代表の藤崎律希さんと一緒にネットで試しに探してみたんです。 

小谷 Zoomの画面共有で(笑)。ここはすごく変な物件で、1階にコンクリートの床で作業できるスペースがあって、2階で生活できて、こんな物件にはそう出会えないだろうということで決めたんです。

山本 彼女はギャラリーノマルで今年も個展を予定していますし、僕も実家に行っても制作はできるので、関東に拠点を移したというよりも、関東と関西の2拠点にして制作も発表も続けていければと考えています。 

──先の「シリーズとしてかたちになった作品」というのは、小谷さんがギャラリーノマルで発表した作品と、山本さんが今回出品される作品でしょうか。 

小谷 私がノマルの個展で発表したのは、立体作品や赤錆を用いた版画なども組み合わせてインスタレーションにした作品なんですが、それよりも知名度のある「21g」のシリーズを今回出品します。去年(2021年)、東京・渋谷の西武渋谷の美術画廊でも発表したものです。 

山本 いつもの立体的な思考よりも、絵画的につくったシリーズだから作風が違うよね。

小谷 絵画ということを突き詰めて、最初に絵画としてかたちにできたのがこの作品。作品に赤錆や黒錆を使ったりするのとは違って、絵具の質感を重視し、絵画を意識して窓というモチーフを使ったから、自分のなかでは「ザ・絵画」を出した感じです。曇りガラスのぼやかすようなフィルターを通して見た世界、その曇りガラスの向こう側に人の姿が見えてしまうような、幽霊を感じ取ってしまうような、そういう人間の脳が勝手にイメージをつくり出してしまうことを表現したのがこのシリーズですね。 

小谷くるみの「21g」シリーズ。左より《21g》(2022)、《21g》(2022)

──「21g」というのは映画の『21グラム』(*1)に由来しますか? 

小谷 そうなんです。それと、たまたま同じ時期に『超常現象の科学 なぜ人は幽霊が見えるのか』(文藝春秋、2012)という本を読んでいて、その本でも人が死んだら21gが失われると書かれていたんです。実際には、死の直前に急激に代謝が上がって21g分のカロリーが急激に消費されることがわかっているらしいのですが、「21g」という含みのある言い方がいいなと思ってタイトルを決めました。幽霊を描きたいわけではなく、幽霊を生み出してしまう人間の脳の構造を表現する作品なので、直接的ではない「21g」の表現にこれや!と思って、大学院の中間発表展に出したのが最初です。 

山本 窓をモチーフにしたり、錆など違う素材を使ったり、シリーズごとにマテリアルやアウトプットが変わるけど大きな背景としてあるテーマは一緒だよね。 

小谷 興味関心の対象として、人類、文化というのは一貫したテーマになってます。人だからこそ感じてしまうもの、人の脳だからこそつくり出してしまうイメージ、みたいなものに興味があって、それを作品にどう表現するかというのは考えますね。 

山本捷平の「Calcite on Myth」シリーズ。左より、《Calcite on Myth-dancing Aphrodite-》(2022)、《Calcite on Myth-dancing woman-》(2022)

──山本さんのこの作品は、3月の個展でも発表される予定ですか。 

山本 そうです。僕の場合は、ある時期に、何をやろうとしても誰かとかぶる気がしたり、「いま絵画をやる意味があるのか」と思ったりして、スランプになったんです。でも学内の中間発表で大きな画面を埋めないといけないから、筆でゆっくり塗るのではなく、絵具をボトルに入れて画面にバシャーっとかける方法で描いてみた。そして、絵具が垂れるともったいないので、画面の下から上に向かってローラーを使って一気に塗り上げてみた。そうすると、線状のイメージをある程度保持しながら、変形しつつ上に向かって繰り返されて図像が描かれていく。そこで、ローラーで絵具をアナログに反復していく際の変化を受け入れながら、反復してかすれ、いずれ絵具がなくなってしまう構造を絵画にどう持ち込むのか考えて試作を続けました。 

小谷 アプローチは違うんだけど、始まりがなんなのか、原理がなんなのか、みたいなことを考えていることが私たちは共通してます。この作品のときも、人間の物語を遡るとギリシャ神話に行きあたると言っていて、私が何か言うと「それ、ギリシャ神話にある」みたいに、なんでもギリシャ神話に紐づけていた時期があった(笑)。 

山本 人を知りたいし、世界を知りたいというのは共通してるね。彼女の場合は、そこで人がつくってきたものを見たり、地層を見たりしてロマンを感じるし、僕の場合は、全部因数分解したらギリシャ神話だったみたいなところにロマンを感じます(笑)。 

それで、ローラーを使って絵画構造を考察した作品をつくる際に、歴史は時代とともにかたちを変えながら反復していて、現代美術もやはり前の時代を受けてかたちを変えながら反復しているということを感じていたので、絵画そのものを反復させるローラーによって、人類が反復してきた物語を表現できないかと考えました。原初に立ち戻ろうと。そこで人類の最初の物語が何かといえば、ギリシャ神話ではないかと。絵画構造を考え、ローラーから生まれる反復という行為によって制作を身体化し、絵画に落としこもうと思ってかたちになったのがこのシリーズです。この企画にも出品しますし、3月のギャラリー初個展でもシリーズで展示します。 

──現代美術とはどのような世界なのかを知り、絵画構造を再考察し、神話という原初の物語に立ち戻ったときに、アーティストが何を表現できるか考えて完成させたんですね。 

山本 そうですね。壁あてのようなイメージというか、神話という壁があったとして、そこに向かって壁あてをしたら、時代ごとに跳ね返ってくるものは変わると思うんです。それをいまの日本人アーティストである自分がやったら、こういうかたちになったということだと思っています。その際に自分宛に指示書を出して、Photoshopで色も徹底的に考えてつくり始めるんですけど、ローラーで描く段階で身体に委ねるので、そこでは想定外のハプニングを受け入れて作品ができ上がるわけです。僕が意図していない効果が出たり、言語化しきれないひとしずくの部分こそがアートの面白さだと理解しているので、そのために身体性というのは大事にしていますね。

アトリエでの山本捷平(左)と小谷くるみ(右)

──読んだ本の内容を交換したり、展覧会も一緒に行って意見を交わしたりしているようですね。最近、何か刺激を受けたことはありましたか。 

小谷 ミイラ展かな?世界各地から色々なミイラが集まっていたけど、一番衝撃だったのはとある即身仏。死ぬまで鈴を鳴らしながらお経を唱えるので、鈴の音が消えたときにその僧侶は即身仏となったことが外界に伝わる。

山本 人生を懸けてミイラになって、即身仏になるのは、人生を作品にしてしまうことだから敵わないよね。

小谷 あれは超えらない。日本のお医者さんのミイラもすごく怖かったけどカッコよかった。血色の良いミイラになるために柿の種を食べて、本当に顔が赤いミイラになっていた。子孫に「後世に機会があれば掘り出してみよ」と書き残して、子孫が開けたら素晴らしいミイラになっていたという話です。人生を賭けて証明してしまうのがカッコいい! 

山本 おたがい、時間に関してロマンを感じるのかもしれない。化石だったり、宇宙だったり、人類史だったり。かつてのアーティストの表現を受け継いでいまの自分の作品をつくることに興奮するし、世界を知るために何をつくるかということをアーティストは追求してきたと思うから、そういう意味であのミイラを見たときには完璧に作品として成立してて、その圧力が半端ではないと思ったし、アートでどう立ち向かえるのかというのは課題だな。 

──アーティストとしての壮大な課題と、発表スケジュールなど具体的な予定とが入り混じって制作されていると思います。最後に今後やっていきたいことを聞かせてください。

小谷 私は今年の夏にギャラリーノマルさんで個展が決まっています。ディレクターの林さんが「こういう素材も面白そう」「これかっこいいやろ」といろいろ送ってきてくださったりするんです。一緒に作品をつくろうとしてくださるんです。自分だけでは知りえなかったことを知ったり、チャレンジしていく中で自分の殻を割っていくような瞬間が多々あります。今後も広い視野で新たな表現を模索出来ればいいなと思っています。

山本 僕はずっと絵画を考えてきて、ローラーを使うことによって絵画構造のことが少し自分のなかでわかってきたので、ローラーによる反復を通して得たフィジカルな感覚であったり、神話をモチーフにした表現で得たものを、じゃあほかのメディウムで作品化するとしたら何ができるか、ということは試していきたい。絵画構造を深く考えたことで、モチーフや形態をフレキシブルに表現する広がりを獲得できるのではないかと考えています。 

*1──映画『21グラム』は、2003年に発表されたアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作品。ショーン・ペン、ナオミ・ワッツ、ベニチオ・デル・トロが共演し、心臓移植と交通事故をキーワードに交錯する3人の運命が描かれる。21グラムは「人がいつか失う重さ」であり、ダンカン・マクドゥーガルという医師が20世紀初頭に行った魂の重量を計測する実験に由来する。 

アトリエでの山本捷平(左)と小谷くるみ(右)

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※同時間に販売開始を予定していた小谷くるみの作品販売は、諸事情により14日(月)から販売開始へ変更となりました。