光を最も集積させ、放出する被写体を探して。小野祐次インタビュー

ヨーロッパの歴史的な建造物に吊り下がるシャンデリアに人工の光を当て、放出される光の集合体を写し取る「Luminescence(ルミネソンス)」シリーズ。シュウゴアーツで開催中の個展で写真作品を展示する小野祐次に話を聞いた。

文・写真=中島良平

小野祐次「Luminescence」展展示風景より

 大学で写真を専攻した小野祐次は、卒業後に縁があってパリに向かった。絵画や彫刻、写真など、ジャンルを問わず世界の美術を担っているのは私たちだ、というフランス人の自己意識の高さを感じながら、1000以上の教会を訪れて空間を見る目を養い、西洋美術を学ぼうとさまざまな美術館に足を運んだ。そうして、目で見ることを超えて、撮るべき対象を感覚で見極める鍛錬を続け、16〜18世紀に描かれた油彩画を自然光のもとで真正面から撮影し、描かれた図像が消え去りながら額縁と絵具の質感が浮かび上がる「タブロー」シリーズを手がけることとなる。

 写真は光の芸術であり、そこには「見る」行為が大きく関わってくる。自然光で図像が「見えない」写真作品を発表した小野は、続いて人工の光を用いて光そのものを写し出す作品を手がけるプランを思い描いた。光を最も集積させ、放出する被写体は何か。そう考えて出会ったのが、「クリスタルの集積」であるシャンデリアだった。

小野祐次「Luminescence」展展示風景より、左から、《Luminescence 13》(2004)、《Luminescence 12》(2002)
小野祐次「Luminescence」展展示風景より、《Luminescence #20》(2005)

 「実際に人間が見ている世界とカメラがとらえるものは違うので、写真が見せる光はこういうものなんだ、というのを『Luminescence』シリーズでは表現しようとしました。じつは被写体のシャンデリアにはピントが合っていないんです。でも、人間の目はパンフォーカスで見ているのでピントが合っているように見える。距離とピントを調整してシャンデリアの光が浮遊しているような画面は、写真だからつくることができるんです」。

 カメラには被写界深度というものがある。レンズの露出を開放すると、レンズからある距離まで、たとえば被写体が人物だとしたらその人物だけにピントが合い、背景のボケた画面が出来上がる。これが被写界深度の浅い画面だ。一方、露出を絞り込むほどに、手前から奥までピントの合う画面となる。被写界深度を深く設定し、そのような画面を生む方法がパンフォーカスだ。人間の目には手前と奥のものの両方にピントを合わせるパンフォーカス機能があることを利用し、小野はどこにもピントが合っていないシャンデリアを光の塊としてとらえられる写真を完成させた。

 小野は、ヴェルサイユ宮殿やシャンティイ城、フランスでは珍しいバロック建築のカトリック教会などを訪れ、シャンデリアを撮影した。写真史と真摯に向き合い、何を指して写真と呼ぶのかと考えてきた彼は、デジタルではなくあくまでもフィルムと印画紙にこだわる。大判カメラを被写体に向け、シャッターを開いてフィルムを感光させ、現像したネガに浮かび上がった像を印画紙に焼き付ける140年前と変わらない銀塩写真のプリント技法で、普遍的な対象である光を可視化する表現を追求する。

小野祐次「Luminescence」展展示風景より、左から、《Luminescence 1》(2005)、《Luminescence 6》(2003)
小野祐次
 

編集部

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