個展会場に足を踏み入れると、大小様々な絵画作品が壁に並ぶ。同じモチーフが縦に並んでいたり、離れたところに異なるサイズで展示されていたり、色鮮やかな絵画がちりばめられた展示構成はリズミカルだ。よく見ると、肌荒れして赤くなった手のひらや噛みつき合ってボロボロになった犬など、「美しい」や「カワイイ」といった表現とはあまり縁のないものが主題に選ばれている。ネットサーフィンをしてモチーフを探すのだという。
「まず色づかいや筆づかいをどう見せるか、というのが軸にあります。同じモチーフを複数枚お見せした方が微妙な色の違いや筆の違いが際立ちますし、それを見せるためには、綺麗なモチーフを綺麗な色で描くよりも、綺麗じゃないものを綺麗に描いた方がふさわしいと考えて、手荒れや短くて太い爪などをモチーフとして選んでいます」。
SNSなどでイメージ検索を行い、油彩で描きたいモチーフを選んだら、まずは鉛筆で紙に描く。できるだけ最初に見た印象を再現できるように、まずはさらっとモチーフの量感や画面上のバランスを記録するためのスケッチを繰り返す。ヴォルフガング・ティルマンスの写真作品のように、ありふれたモチーフを視覚的にとらえ直す作業に興味をもち、それを絵画的に、筆致を意識しながら絵画にすることを考えるきっかけとなったのは、大学を卒業して絵から少し離れた時期に、改めてボナールやモネの作品に惹かれたことだという。
「どの色のどの硬さの絵具を、どの筆で混ぜたらこんな綺麗な色ができあがるんやろう、っていう単純な感想がきっかけです。自分は絵のそういうところが好きで絵を描いているんやと再確認できて、それから色使いや筆使いを意識してまた絵を描くにようになりました」。
以来、「単純に絵が上手くなりたい」という動機で絵を描き続けている。初めての個展を開いた今、今後の作家としてのビジョンを聞くと、「なんやろ?」と悩んでから笑ってこう話す。
「単純に、絵が上手い妖怪のようになりたい。めっちゃ絵がうまいおばあさんとかカッコいいやろなって。いまはいろんな作家さんのいろんな作品を模写したり勉強をして、もっともっと使える色の幅とか、絵具の重ね方とか筆使いとかの幅が増えたらいいなと思っています」。