韓国・光州で開催中の第16回光州ビエンナーレ。そのパビリオン・プロジェクトのひとつとして、台湾のアーティストによる展覧会「Instance Dungeons: Gray Zone」が開催されている。映像や3Dアニメーション、AIなどを用いた作品を通じて浮かび上がるのは、地政学的な状況だけではなく、情報やテクノロジーによって私たちの現実認識がいかにかたちづくられているのかという問いだ。
The Art Newspaperによると、本展は開幕前にはTaiwan Pavilion」の名称をめぐって主催者と台湾側とのあいだで見解の相違が生じており、一連の動向が報じられていた。そうした状況を経て開幕した展覧会は、いまどのように見ることができるのか。現地で、キュレーターのひとり、陳湘汶(チェン・シャンウェン)にその構想を聞いた。
ゲームの「ダンジョン」から考える現実世界
「Instance Dungeons: Gray Zone」というタイトルの「Instance Dungeon」は、もともとオンラインゲームなどで使われる言葉だ。プレイヤーごとに生成された限定的な空間に入り、そこで経験値を積んだり、アイテムを獲得したりする「ダンジョン」を意味する。

陳は、このゲーム上の構造と現実世界とを重ね合わせることから、本展を構想したという。「台湾では、台湾を取り巻く国々とのあいだに様々な政治的な問題があります。いっぽうで、ウクライナとロシアの戦争があり、アメリカと中東の国々をめぐる問題もある。世界の異なる地域で、似たようなストーリーがある種『コピー&ペースト』されているように感じるんです」。
そこにあるのは、異なる地域で起こる出来事を同一視することではない。むしろ、各地に固有の歴史や状況があるいっぽうで、個人を超えた大きな力が人々の置かれる環境をかたちづくるという構造への関心だ。陳は「私たちは、大国や巨大な力によってコントロールされている部分もあります」と話す。
しかし、「Gray Zone」が指し示す領域は地政学だけにはとどまらない。会場を歩いてまず目につくのは、映像やスクリーン、コンピューターによって生成されたイメージの多さだ。本展では、情報やテクノロジーによって私たちが現実を知覚する仕組みそのものが、繰り返し問いに付されている。
情報やテクノロジーがつくる「現実」
そのひとつが、鄭先喻(チェン・シェンユゥ)の《Traced》(2025)だ。会場の天井に設置されたモニターとAIプログラムが用いられた本作では、鑑賞者の動きに合わせて照明がスポットライトのように移動する。

陳は、この作品を展覧会の出発点として位置づける。インターネット上で誰かとコミュニケーションを取ったり、何かを検索したりするとき、私たちは自らの意思で行動していると考える。しかしその背後では、意識しないうちに行動の痕跡が記録され、データとして処理されている。
陳はこの作品について、「私たちはインターネット上で、友人たちと能動的にコミュニケーションしていると思っています。しかしその一方で、私たちが意識していないところで、何らかの力が私たちのデータや行動の痕跡をコントロールしている」と語る。
政治的、軍事的な権力だけではなく、日常的に接する情報環境もまた、人間の認識を形づくる。本展が扱う「力」は、必ずしも目に見えるものではない。
こうした情報環境を別の角度から扱うのが、李亦凡(リー・イーファン)の《important_message.mp4》(2019〜20)だ。大小複数の画面が空間に散在するマルチチャンネル映像インスタレーションで、陳によれば、インターネット上に流通する陰謀論が題材となっている。陳がここで重視するのは、情報の真偽を判定することだけではない。


「この展覧会は、地政学的な問題だけを扱っているわけではありません。データや情報が私たちの思考をどのようにコントロールしているのかについて、人々が意識を持つ必要があるということも重要です」。
誰もが同じインターネットに接続しているように見えながら、それぞれが接している情報は異なる。何を見るか、何を信じるかという個人の判断と、それを取り巻く情報環境との境界もまた、本展におけるひとつの「グレーゾーン」と言える。
































