YOSHIROTTENが個展で探究する、
最小要素で最大効果をもたらすグラフィックの可能性
ファインアートから音楽アルバムのジャケット、空間デザインまであらゆる領域で視覚言語を操り、表現を続けるYOSHIROTTEN。現在、ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)で開催中の個展「Radial Graphics Bio / 拡張するグラフィック」で目指すものとは何なのか。作家本人と個展会場を巡りながら、話を聞いた。
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グラフィックの力を最大限に生かすには
今展はギャラリーの2フロアを用いて展開されている。まずは1階の薄暗い空間に入ると、正対する壁面いっぱいに《Signal RGB(2024 Version)》が広がっている。大きさ・種類ともバラバラな60台の液晶ディスプレイに、スクリーンセーバーが映し出されている。
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スクリーンセーバーは元来モニターの焼き付きを防ぐための動く図像で、グラフィック自体に意味はない。それらが一堂に集められ、うごめいているのを見るのは、至極新鮮な視覚体験だ。一つひとつのスクリーンセーバーは伝えるべき情報を含まないので、純粋に形象と動きを味わえる。
「1階の展示は、原体験をベースにしています。子供のころ学校のコンピュータルームをのぞいたら、ずらりと並んだディスプレイ上でスクリーンセーバーが動いていて、衝撃を受けた。それからグラフィックにハマっていったので、僕のものづくりの原点は、あの教室の光景なんです」。
YOSHIROTTENの原体験は1990年代の出来事である。それを思うと、インスタレーションを構成するほかの作品にどこか懐かしさが漂うのにも納得がいく。展示室の隅に佇む《RGB Machine》は、映像作家・橋本麦との共同作品で、古めかしい筐体に押しボタン式のコントローラーが付いている。さほど大きくない画面にはグラデーションのないピクセル・グラフィックが映し出され、ボタン操作によってパターンは変化していく。
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壁面に掛けられた《RGB Blueprint Series》は、平面の支持体に特殊印刷技術でグラフィックを定着させたものである。ここでも、原体験としてのスクリーンセーバーのグラフィックが、いかにYOSHIROTTENの脳内にこびりつき、拭いとれない存在であるかが表れているように感じる。
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展示空間全体は無数の光が移ろい愉しげで、かつレトロな雰囲気が漂う。同時に、それらの効果が、ごく単純な形と色のみによってもたらされていることにも気づき、驚く。
「それこそが、まさにグラフィックの力だと思っています。『最小の要素を使って最大のインパクトをもたらすもの』というのが、僕にとってのグラフィックの定義。要らないものを削ぎ落とし、本質だけを剥き出しにした状態で提示することでもっとも強い表現になると信じて、それを徹底しています。色についても、コンピュータ上の画像を構成するレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)の三原色、いわゆるRGBのみを用いています」。
「創作はすべて等価」であることを示すアーカイヴ展示
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地階の展示へと歩を進める。床面照明の室内には大小16のモニターが設置され、過去約15年のキャリアでYOSHIROTTENのつくってきたイメージ群が次々に映し出される。彼のグラフィック言語が視覚的にどう表現されてきたかを示すインスタレーション、《R.G.B. Radial Graphics Bio》だ。
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グラフィックデザイン、アートディレクションを担当した成果物、映像、アート作品、個展会場風景、クラブイベントのフライヤー、自主制作のZINE……。多種多様なイメージが浮かんでは消えを繰り返し、「呼吸するアーカイヴ」とでも呼びたくなる様相を呈している。
「瞬間ごとに見られるイメージの組み合わせは無限で、どんな光景に出会えるかは偶然に依るしかない仕組みになっています。自分のつくったものはすべて等価で、優劣をつけて並べることなどできないので、自作のアーカイヴ展示とはいえ、時系列で見せたり、代表作のみピックアップして構成するつもりはありませんでした。ランダムに流れる作品群を眺めていると、キャリアの初期といまとで、やっていることはほとんど変わっていないなと改めて感じました」。
不思議なのは、室内のところどころにさりげなく、解説も付されずに大きな石が置かれていること。
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「故郷の鹿児島から運んできたもので、その存在感を活用したかった。この石は太古から存在していて、地球上で起きた出来事を黙々と記録してきた、いわば地球の記憶装置です。ここに置いておくことで、周りに映し出されている僕の15年分のアーカイヴも石が記録してくれるのではないかと考えました。また、モニターが居並ぶ無機質な空間に石の塊がポンと置かれていることで、人工物と自然物それぞれの異物感を、くっきり際立たせられるのではないかというねらいもあります」。
対極的なものを並置することで、強いインパクトを生み出しながらも両者を調和させるというのは、YOSHIROTTEN作品に通底する特長である。
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「自然をモチーフに人工的なイメージを構築したり、自然のなかに人工物を同居させ、なじませた光景をつくることは、2018年の個展「FUTURE NATURE」以来ずっと探究し続けていること。そうした方法論によって、両義性を持った空間を生み出せたらと、つねに思っています。今展に寄せられた感想のなかに、『心地よくて平和で、それでいてゴリゴリに攻めて』いる、という言葉を見つけたときは、うれしかったですね。まさにそういう雰囲気を実現したいと思っていたので」。
これまでの軌跡をまとめたアーカイヴ展示をしたからといって、今後も活動の歩みを緩めるつもりはさらさらない。
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「今回の展示で登場させたイメージは500点ほどですが、これまでの活動を通して生み出したイメージは、ざっと数えて1万点以上あるんです。いずれは、それらをすべて投入できるくらいの規模のアーカイヴ展示もしてみたい。具体的な計画でいえば、近いうちに、自分としては初めてとなる美術館での個展を予定しています。その土地に固有の自然の光景や産物に、人工的な新しい光を当ててみるとどう見えるか。そんな大がかりなチャレンジをしたいと考えているところです」。