「やるならNFTでしかやれないことに挑戦したかった」YOSHIROTTENインタビュー

あらゆる媒体を駆使し、領域を超越しながら幅広い活動を続けているアーティストのYOSHIROTTEN。その活動スタイルを象徴するかのように、現在継続している大型プロジェクト「SUN」は、インスタレーションや書籍、NFTなど様々なかたちに落とし込んでいる。その「SUN」プロジェクトの全体像をなぞりながら、NFTで展開した理由や手応えについて、話を聞いた。Adam byGMOがお送りする、スペシャル・インタビュー。(PR)

聞き手・文=山内宏泰 撮影=栃久保誠

 大規模インスタレーションから印刷物やプロダクトまでを並行して手がけ、ファインアートもデザインもと領域を軽々と超え活動するのが、アーティストYOSHIROTTENのスタイルである。現在は、コロナ禍のさなかに立ち上げた世にも美しき作品「SUN」を全面展開中。NFTを重要な要素に据えている理由や、NFTアートの可能性を聞く。

「SUN」シリーズの一部

──2021 年に始まった「SUN」シリーズは、銀色の太陽を描いた 365 枚のデジタル・イメージからなり、インスタレーション、アルミニウム・プリント、書籍、そしてNFTと様々なかたちで展開されています。コロナ禍で生まれたクリエーションを代表する作品のひとつと目されますが、これはどのような経緯で立ち上がってきたのでしょうか。

 皆さんと同じように僕もコロナ禍ではスタジオを封鎖し、リモートで黙々と仕事をする日々を過ごしました。家に閉じこもりニュースを眺め、悶々としながらも、作品づくりは継続していました。そこを手放してはまずいと直感していたので。

 もともと自然や宇宙のことには関心が強くて、それらを作品テーマにしていたんですが、家にいて時間があるので、改めてあれこれ深掘りして調べものをしていたら、地球そのもののありようが面白く思えてきた。地球の内側がどうなっているかというと、まず表面に地殻と呼ばれる層があり、その下にマントルがある。マントルは、カラフルな岩石を多く含みながら流動しているのだといいます。さらに奥へ進むと外核、そして主に鉄でできた内核がある。地球の中心にある内核のイメージが、僕のなかにありありと浮かんだ。それが第二の太陽のように感じられ、これを僕の太陽にしようと決めました。そうして1日にひとつずつ、異なる色を持った太陽を描いていく「SUN」プロジェクトが始まったのです。

YOSHIROTTEN Photo by Makoto Tochikubo

──日々の制作はどのように進めたのですか。

 今日はどんな色にしようかとぼんやり考えながら、街を歩いたり人と話したり映像を見たりしていると、フワッと色が頭に浮かんでくるので、それを感覚的にとらえるようにしていました。メディテーション(瞑想)感覚ですね。描き方もあえて決めず、PCの前に座ってアートボードをつくったら、日によって円から描いたり空の部分の色を先につけたり。さっと描き終えられるときもあれば、あれこれ考えてやたら時間がかかる日もありました。

「SUN」は生成AIを使ったアートワークと違い、ひとつずつ手作業で着色しています。円も同じものを使い回すのではなく、毎日新たに円を引きました。すべて統一されているように見えて、じつはひとつずつかたちもサイズも微妙に異なるんですよ。手間をかければいいわけじゃないんですが、ただ毎日何かをつくろう、つくり続けることを止めないようにしようとだけ考え、つくる手応えを欲していたのかもしれません。 

「SUN」はレコードや大型の作品集、ミニブックなどにも展開 Photo by Makoto Tochikubo

──作品発表の予定・計画は当初からあったのですか。

 70日ほど続けた頃に、1年やって365点のシリーズにしようと思い立ち、作品の全体像が定まりました。ただその後にどう見せていくかは、制作している時点では考えていませんでした。

 途中で発表することもなく365点のシリーズをつくり終えて、お披露目したのは2022年に入ってから。静岡の野外フェス「Rainbow Disco Club」と山梨の「GASBON METABOLISM」で、「SUN」のモノリス(板状の大きなアクリル)を10体ほど展示しました。モノリスに光が当たることで、表面は刻々といろいろな表情を帯びます。変化する光そのものをとらえ、改めて光を見るような展示ができました。

2022年、GASBON METABOLISMでの展示風景

 この成功体験を経て、インスタレーションとして大々的に展開したいという欲求が募り、2023年に入ってからはまず渋谷MODIの大型ヴィジョンをジャックし、「SUN」を上映するプロジェクトが実現しました。このときLEDを用いたのがうまくいったので、「SUN」をもっといろいろなメディアに転換していけるという確信を得ました。

2023年、渋谷MODIの大型ヴィジョンで上映した「SUN」

 そこから紙に落とし込んで印刷物にしたり、アクリルにプリントしてオブジェをつくったりと、いろいろな素材を試しまくり、「SUN」の世界はどんどん広がっていきます。それらを一斉に見せられる展示がしたくて、実現させたのが国立競技場の大型車駐車場でのインスタレーションでした。続けて千葉・幕張を舞台とした「MICUSRAT -Loves music and art-」プロジェクトにも参加。野外インスタレーションのほか、500機のドローンを用いたSUNを夜空に浮かべました。

2023年、国立競技場・大型車駐車場でのインスタレーション風景
2023年、幕張での「MICUSRAT -Loves music and art-」プロジェクトの記録動画

──そのように「SUN」の世界が広がっていくなかで、デジタルアート「SUN NFT」も登場してきたのですね。

 はい。「SUN」を拡張していくにあたって、フィジカルだけでなくデジタル方面に視野を広げていくのは当然のことでした。「SUN」には日付とひもづいた365種類のヴィジュアルがあるので、日付を選んで好きなNFTを購入することができるようにしました。購入者は、選んだ「SUN」を所有しいつでも見られるのはもちろんのこと、自分だけのSUNが変化していく様を楽しめます。それぞれの「SUN」は365日かけて色相が変化し続けるのです。植物を育てるみたいに、日々付き合うことで何かが変わっていく面白さを味わってもらえたら。本人が誰かに見せないかぎり、今日の「SUN」の色は購入者にしか見られない。となれば自分の「SUN」を一層かけがえのないものと感じてもらえるのではないかと思っています。

「SUN NFT」イメージ

 NFTを手がけるのなら、ブロックチェーンによって唯一性を担保して「自分だけがこれを持っている」という喜びを提供するだけじゃなく、さらに一歩踏み込んだ新しい何か、NFTでしかやれないことに挑戦したい気持ちがありました。365日にわたり所有したNFTが色相を変化させていくというのは、ほかになかなかないものとなったんじゃないかと自負しています。

──「SUN」プロジェクトでNFTを手がけようと考えたきっかけはあったのですか。

 NFTが世に出始めた頃から、ずっと関心は持っていたんです。ようやくデジタルアートがちゃんと価値を持つ仕組みができるんだという期待があって。少しでもデジタル技術を用いて制作をしている人なら皆、デジタルの創作がそのままの状態だと価値が生じず、何かにプリントしたりTシャツになったりしてようやく値が付く状況にモヤモヤしていたはず。NFTはそのモヤモヤを突き破ってくれるテクノロジーだという予感がありました。

 ところが自分でも取り組んでみようと思っていた矢先、NFTを取り巻く状況が目まぐるしく変わって、クリエイションより投機の色合いが強くなっていった。それでいったん、自分のなかで熱が冷めた状態になってしまいました。でもいまは状況がかなり落ち着いてきたし、信頼できるエンジニアチームと出会えたりもしたので、「SUN」プロジェクトのNFT展開を始めました。   

YOSHIROTTEN Photo by Makoto Tochikubo

──実際に手がけてみて、NFTに対して手応えや可能性は感じましたか?

 「SUN」の色相が1年かけて変わっていくのもそうですが、やろうと思えば、NFTでこれまでにない新しい表現がまだいろいろできそうです。あちこちであれこれ模索する動きはありますし。

 今後はNFTの保有者同士が集い、つながり、コミュニティができていく動きにも参画できたら面白そうです。例えば「SUN」のNFTを持つ人が、お互い交流できる場に参加できたり、次の展覧会の案内をほかの人より早く詳しく受け取れたり、イベントの優待を得られたりといったことができたらいいし、実現させていきたいです。

──「SUN NFT」保有者の反応や反響は耳に入ってきますか?   

 初めて購入したNFTが「SUN」でした、と言ってくださる方が何人かいました。新しい世界に入るきっかけになったのならうれしい。あと「自分がNFTで持っているのと同じ絵柄の作品が、展覧会でも展示されていて感動した」という声も。これは「SUN」が幅広い展開をしているからこそですね。

 太陽の光と恵みは地球上の皆が平等に受け取れる。同じように「SUN」プロジェクトも皆に共有してほしい。なのでとにかく、できるだけ多くの人に広めることを大事にしています。展示のインスタレーションにふれられなかった人も書店で本を手に取ったり、インターネット上でNFT作品にアクセスしたりと、いろいろなメディアに展開してタッチポイントを増やしていきたいんです。 

京都の印刷所、サンエムカラーとともに、とことんこだわってつくった「SUN」作品集 Photo by Makoto Tochikubo

 

 昨年末には、自分の生まれた町の海辺で、「SUN」の屋外展示をしたんです。普段アートイベントなんてやらないような場所なのに、想像以上にたくさんの人が見に来てくれました。全国のいろいろな海岸で同様のイベントをやりたいですね。あと雪の上でも「SUN」は映えると思うので、雪上展示もしてみたい。

 さらにいま構想しているのは、宿泊型メディテーションアートスペース「SUN HOUSE」です。「SUN」とともに時間を過ごし心身ともに癒やされる場を、自然あふれる土地につくりたいと思っています。「SUN NFT」所有者はそこに優先的に泊まれるといった仕組みも築いていきたいですね。

YOSHIROTTEN Photo by Makoto Tochikubo

編集部