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ジェンダー、アイデンティティ、歴史の交差点でミン・ウォンが見せた「コスミック・シアター」

10月21日まで東京・六本木のオオタファインアーツでシンガポール出身のアーティスト、ミン・ウォンの個展「宇宙歌劇」が開催中。パフォーマンスをはじめ多様な手法を用いた作品を制作し、ジェンダーやアイデンティティ、ディアスポラなど様々なテーマを探求し続けるウォンにインタビューを行った。

聞き手・文=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

ミン・ウォン 撮影=筆者

ライフ・オブ・イミテーション(模倣の人生)

 ミン・ウォンと最初に会ったのは、2019年にタイのバンコク芸術文化センターで開催された「SPECTROSYNTHESIS II」展のオープニングのときだった。ウォンを含む6人のアーティストがオープニングセレモニーでカーニバルスタイルのドラッグパフォーマンスを行ったのだ。赤、オレンジ、黄、緑、青、紫......それぞれのアーティストはいずれかの色を基調にした衣装を身につけ、LGBTQ+運動のシンボルであるレインボーフラッグの色に呼応する祝祭のようなパフォーマンスだった。

「SPECTROSYNTHESIS II」展(バンコク芸術文化センター、タイ、2019)のオープニングにて。中央の黄色の服装をしたパフォーマーがミン・ウォン 撮影=筆者

 その数日後、ウォンは東京のギャラリー「ASAKUSA」での個展「偽娘恥辱㊙︎部屋」の開幕のために来日。同展でウォンは、「日活ロマンポルノ」を題材にした一連のヴィデオ・インスタレーションを発表した。展覧会のオープニングでは、照明機材や多数の携帯電話の画面に囲まれたベッドの上でウォンがライヴパフォーマンスを披露し、ピンク色にあふれる魅惑的な空間はポルノ映画のセットをも思い起こさせた。

 ウォンの作品において、パフォーマンスは重要な位置を占めている。これはアーティストの初期の経験に関係しているかもしれない。1971年シンガポール生まれのウォンは、92年からナンヤン芸術アカデミーで中国美術を学びながら、演劇の脚本執筆や出演にも精力的に取り組んだ。95年に同校を卒業後、劇場で劇作家としても活動。97年に美術の勉強を続けるためにロンドンに移り、ヴィデオ作品の制作を開始。2009年には第53回ヴェネチア・ビエンナーレにシンガポール代表として参加し、展覧会タイトルとなった《Life of Imitation》(2009)を含む3つの映像インスタレーションで構成された展覧会は、同国出身のアーティストとしては初めてとなる審査員特別賞を受賞した。

第53回ヴェネチア・ビエンナーレ(シンガポール館)の展示風景より、《Life of Imitation》(2009)
© Ming Wong. Courtesy of Ota Fine Arts

 パフォーマンス以外にも、映画、ヴィデオ、写真、インスタレーションなど、様々なメディアを巧みに組み合わせた作品で知られるウォン。男女問わず複数の役に自ら出演したり、世界的に有名な映画の場面を再現したりすることで、ジェンダーやアイデンティティの多様性、異文化間のつながりと違いなどを探求している。

時空とジェンダーを旅する人

 今年1月のシンガポール・アート・ウィークで、ウォンはミュージックレーベルのSyndicateとともに、シンガポール美術館前に設置された自身のインスタレーション作品《Wayang Spaceship》(2022)で特別公演を開催。シンガポールのストリートシアター「Wayang(ワヤン)」を題材にしたこの作品には虹色の光で彩られた近未来的なステージが設置され、その中央にあるスクリーンでは、ウォンが収集した1950年代から70年代の広東オペラの映像に、SF映画や自身の映像作品を組み合わせたコラージュ映像が上映された。このコラージュ映像を中心としたウォンの個展「宇宙歌劇」は、東京・六本木のオオタファインアーツで10月21日まで開催中だ。

ミン・ウォン Wayang Spaceship 2022
Courtesy of Singapore Art Museum

 本展について、ウォンは開幕前に「美術手帖」のインタビューで次のように述べている。「20世紀前半のユートピア的な未来のテクノロジーと科学への憧れを背景に、ワヤン俳優や時空とジェンダーを旅する人々を組み合わせたようなものだ」。

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