不気味さの深層に介入する
正常なものに潜む狂気、あるいはオカルトと表される異端的な現象や思想。美術家の久保ガエタンは、そうした不可視のイメージを起点に作品を制作してきた。「超自然、UFOなどの"オカルト"は人間の想像力の本質だと考えています」と久保は話す。
これまでポルターガイストを題材に、激しく小部屋が回転するインスタレーション《Smoothie》(2013)などを手がけてきた久保だが、東京・千住の「たこテラス」にて3月13日まで開催する個展「記憶の遠近法」では、映画人、文学者、マンガ家らを魅了した「お化け煙突」のリサーチに基づく新作を発表する。
白い煙を吐き、眺める方向によっては4本の煙突の数が1本、2本、3本と異なって見えることから「お化け煙突」と呼ばれていた足立区、千住火力発電所の煙突。久保は、千住を拠点とした「千住・縁レジデンス」の公開コンペに向け同地を調査するうち、1964年の発電所解体後、遊具やモニュメントへと転生したこの煙突の数奇な運命に突き当たる。その始まりは「戦艦」だったのだ。
「明治政府がアメリカから購入した戦艦の鉄が、発電機や煙突になった。さらにその戦艦は、僕の母のルーツであるフランス・ボルドーで建造されていたことがわかりました」。個展では、煙突の破片を利用したオブジェ、模型、インタビュー映像、写真など、様々な要素で会場を構成。過去へと時間を遡りながら、物質の流転、久保の個人史までもがひもとかれる。
「東日本大震災の後、自分が受容していた日常や電力の背景にある歪みや狂気に気づくと同時に、不可視な事象を表現していくことに自覚的になりました。見えないものを見る、隠されたものを暴くというのは、僕の作品づくりの大きな動機です」。
(『美術手帖』2016年3月号「ART NAVI」より)