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なぜMoMAはいまファッションを取り上げるのか? 73年ぶりの展覧会で見せる111のアイテム

ニューヨーク近代美術館(MoMA)で、世界に影響を与えた衣服とアクセサリーを考察することをテーマとした「Items: Is Fashion Modern?」展が2018年1月28日まで開催されている。その見どころを現地からレポートする。

文=國上直子

会場風景。厳選された111アイテムのリスト © 2017 The Museum of Modern Art. Photo by Martin Seck

 「前世紀、世界に多大な影響を及ぼした衣服とアクセサリー111アイテムを考察する」をテーマとし、総数350点を超える展示物が並ぶ「Items: Is Fashion Modern?」展。ニューヨーク近代美術館(MoMA)がファッションをテーマにした展示を行うのは、1929年の開館以来、今回が2回目となる(前回は44年の「Are Clothes Modern?」展)。

会場風景

 ファッションは、政治、経済、文化だけでなくテクノロジーやスタイルと交差し、あらゆる場所と人々に関わる、社会への影響が大きい重要なデザイン領域である。なぜMoMAは70年以上もファッションの取り扱いを避けてきたのか。

 キュレーターのパオラ・アントネッリは、「ファッションデザインは、その流動性、一過性ゆえに、低級なデザイン分野と見なされ、真剣にアートの領域で取り上げられることが少なかった」と語る。しかし「ファッションを語らずして、近代デザイン史は語れない」という彼女の強い信念から、この展示は出発している。

 近年、ファッションをテーマとした大規模展覧会が美術館で開かれることは珍しくなくなり、集客の面からも大きな成功を収めるようになってきている。メトロポリタン美術館での「アレクサンダ一・マックイーン展」(2011年)や、ブルックリン美術館での「ジャン・ポール・ゴルチェ展」(2013年)などは、ファッションが展示物として成り立つだけではなく、人々の心に残るコンテンツとなりえることを証明し、いまでも話題に上る金字塔的展覧会となっている。

「プラットホーム・シューズ」の展示コーナー © 2017 The Museum of Modern Art. Photo by Martin Seck

 これまで成功してきた展覧会の多くが、特定のデザイナーあるいは、地域、時代を切り口にしているなか、本展のアプローチは異なる。

 ニューヨークを「観測所」と仮定し、そこで目にする様々なファッションから、重要なアイテムをセレクト。ブランドやスタイルにこだわるのではなく、そのアイテムがどのように社会に影響を及ぼしたのか、いかに以降のファッションの流れを変えていったのかといった、社会的側面に焦点を置いている。このアプローチには、ファッションの取り扱いに関して遅れを取った感のあるMoMAが、他の美術館と一線を画そうとする意欲が見て取れる。

 会場を見渡してまず目に付くのは、見慣れたファッションアイテムの多さ。リーバイス501、バレーシューズ、シャネルNo.5、ダウンジャケット、コンバース、赤い口紅等々。ともすれば、女性ファッション誌で「長く使える定番」として紹介されるようなアイテムが並んでいる印象を受ける。

1926年『ヴォーグ誌』がシャネルのブラックドレスを紹介した際、「リトル・ブラックドレス」のコンセプトが生まれた。典型が定まることなく遷移を続けている © 2017 The Museum of Modern Art. Photo by Martin Seck

 例えば、「スティレット」(女性用ハイヒールでヒール部分が細いもの)として、お馴染みのマノロ・ブラニク、ジミー・チュウ、クリスチャン・ルブタンの靴が並ぶ。しかし、ファッション誌と異なるのは、これらのブランドが掘り下げられることがないという点だ。

 作品ラベルでは、「スティレット」が中世の武器に由来すること、第二次大戦後、鉄と皮革の配給規制が解かれたのを境に一気に浸透したことなど、歴史的流れが紹介される。また戦時中に抑圧されていたセクシャリティの追求が戦後解放されたことで、多くの女性が脚を長く見せ、胸やお尻を強調する「スティレット」を(その激痛を伴う履き心地にも関わらず)求めるようになったという社会的背景の考察もなされている。

「ダッチワックス・ファブリック」はいろんな形に加工され、カジュアルにも冠婚葬祭にも着用される

 様々な文化・宗教バックグラウンドを持つ人々が世界中から集まるニューヨークでは、民族的・宗教的衣服も多く目にする。会場では、そのような個々のアイデンティティに関わるアイテムにもスペースが割かれている。

 「ダッチワックス・ファブリック」は、20世紀半ば、アフリカの植民地国の独立運動の礎となった、パン・アフリカ主義の象徴的アイテム。西アフリカとそこから世界各地へ移住していった人々のアイデンティティと結びついた民族衣装として、様々なデザインに加工され着用されている。

 しかし、もとはといえば、13世紀以前にインドネシアで完成したバティックの作製技術が、17世紀にオランダ東インド会社を介してヨーロッパに渡り、安価に大量生産できるようになった後、中央及び西アフリカに展開し発展していったもの。かつてのヨーロッパの覇権がベースになって広まった布地が、アフリカ解放のシンボルとして用いられるというねじれた現象が起こった。

 「民族衣装」と聞くと、特定の地域や文化で「純粋培養」されたものを連想してしまうが、ファッションとは、歴史や他文化を貪欲に取り込んでいくハイブリッドなものなのだということが示されている。

解説に見入る人が多い

 各アイテムの歴史的・社会的文脈が丁寧に紹介されているのを見ると、本展の構想に6年かかったというのもうなずける。ただ結果としては、作品ラベル(キャプション)の説明への依存度が非常に高い内容になっている。展覧会の本質を楽しむためには、少々観客の「努力」が必要だ。

イッセイ・ミヤケと藤原大によるA-POC Queen Textile。単一の糸、単一のプロセスから生み出される服が全身を包む

 また会場では、川久保玲、山本耀司、三宅一生、ハナ・タジマ、川西遼平などによるアイテムや、地下足袋の形態を模したメゾン・マルタン・マンジェラの「Tabi」シューズ、着物に着想を得たダイアン・フォン・ファステンバーグのラップドレスなどが並び、「日本」の影響を少なからず感じることができる。

 他にも見所がたくさんあるMoMAだが、本展は時間を多めに確保して鑑賞したい内容となっている。

編集部

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