『陶芸考─現代日本の陶芸家たち』
美術、写真だけでなく陶芸の世界にも造詣の深い著者が、近年発表したテキストを集めた陶芸批評集。旧来的な工芸の枠組みを超え、いまや陶芸は現代美術のギャラリーでも扱われ、「アートか工芸か」の二元論を揺るがしている。かかる状況を早い段階から見据えてきた著者は、現代陶芸のルーツのひとつである桃山陶の継承のすがたや、現代作家による「写し」のパフォーマティブな性格を指摘する。観賞から批評への道筋を示す一冊。(中島)
『陶芸考─現代日本の陶芸家たち』
清水穣=著
現代思潮新社|2200円+税
『フレイマー・フレイムド』
ヴェトナム出身のディアスポラであり、批評家、詩人、映像作家として活躍するトリン・T.ミンハ。多岐にわたる活動の根幹にあるのは、複数のカテゴリー間にある境界線を押し拡げるという一貫した信念だ。『姓はヴェト、名はナム』(1989年)など代表的な映像作品3編のスクリプトに加え、9本のインタビューではポストフェミニズムやドキュメンタリー/フィクションをめぐる問題に言及。人類学的な知に基づいたミンハの活動が明らかになる。(中島)
『フレイマー・フレイムド』
トリン・T. ミンハ=著
水声社|4000円+税
『世界を〈放置〉する ものと場の思考集成』
「もの派」を牽引してきた美術家・菅木志雄が、1960年代の終わりから近年まで雑誌や展覧会の図録などに寄せた文章の選集。およそ半世紀に及ぶ活動の中に、揺るぎない態度と強い信念がうかがえ、菅作品における「放置」がいかに周到な行為であるかがわかるだろう。作家活動の総括や本書編纂の意図を明示するような序や跋を持たない本書の構成自体も菅の作品と通ずるところがあり、示唆に富む折々の言葉は有機的につながりゆく。(松﨑)
『世界を〈放置〉する ものと場の思考集成』
菅木志雄=著
ぷねうま舎|4300円+税
『社会の芸術/芸術という社会 社会とアートの関係、その再創造に向けて』
近年報道される日本の「アート」は、地方創生の花形である一方、表現の自由をめぐって当局と対立を繰り返す。街おこし機能への手放しの歓待も、政治批判や性表現への過剰反応も、芸術表現に対する無理解の表裏だ。しかしそうしてアートの対局に「一般の人」を位置づけるジレンマに、本書は向き合う。作家、学芸員、研究者らの論文と対話の記録によって、アートワールドという社会、あるいはアートワールドと社会の様々な課題が提示されている。(松﨑)
『社会の芸術/芸術という社会 社会とアートの関係、その再創造に向けて』
北田暁大+神野真吾+竹田恵子=著
フィルムアート社|2800円+税
(『美術手帖』2017年4月号「BOOK」より)