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法的に「自粛と補償はセット」といえるのか? 弁護士・行政法研究者が詳細に解説【3/3ページ】

*1──政府は、2020年3月28日の安倍首相(当時)記者会見で、イベント中止の損失を補償することは難しい旨述べており(2020年3月29日朝日新聞朝刊3面参照)、また、同年4月1日の参議院決算委員会で、自粛要請によって影響を受けているバーやクラブについて、個別に損失を補償することは難しいとの認識を示している(2020年4月1日朝日新聞夕刊1面)。また、2回目の緊急事態宣言においても、知事による午後8時までの時短営業要請に応じた店舗に対しては、1店舗あたり1日最大6万円の「協力金」を交付するとしている(2021年4月1日日日本経済新聞朝刊1面)
*2──長谷部恭男=杉田敦「コロナ対策、『罰則』と『自由』と」2020年7月26日朝日新聞朝刊2面〔長谷部恭男〕。
*3──2020年3月29日朝日新聞朝刊29面。
*4──2021年1月7日日本経済新聞朝刊3面。
*5──この「罰則」に関し、政府は、刑罰とは異なる(前科にはならない)「過料」を科すこととするなどの規定を新設するようである(2021年1月7日毎日新聞朝刊1面参照)。なお、この「過料」の法的性質は、おそらく行政罰のうちの秩序罰としての過料だと考えられるが、執行罰(その例として砂防法36条に定める過料が挙げられる)の可能性もゼロではなかろう(執筆時点である2021年1月7日段階では筆者が調査した限りではあるが、どちらかは不明である)。
*6──筆者は、行政法(公法)を研究する実務家法曹であることに加え、事業者の文化芸術活動への助成に関する訴訟や、コロナ禍関連の行政訴訟・憲法訴訟(最近報道されたものとして、①映画『宮本から君へ』助成金不交付決定取消訴訟、②性風俗事業者への持続化給付金等請求訴訟)の訴訟代理人を担当していることなどから、1回目(2020年4月)の緊急事態宣言よりも前から、自粛(規制)と補償・給付の問題について関心を持っていた(平裕介「憲法に基づく損失補償も必要に」北海道新聞2020年5月15日朝刊5面等参照)。なお、①の訴訟に関する記事として、石飛徳樹=小峰健二「映画の助成不交付 提訴へ 制作会社『公益性理由は違法』」朝日新聞2019年12月8日朝刊31面、前野祐一「『宮本から君へ』助成金不交付問題、裁判へ」キネマ旬報1835号(2020年)122頁)等、②の訴訟に関する記事として、新屋絵里=宮野拓也「『性風俗除外は違憲』国を提訴 業者、コロナ給付金巡り」朝日新聞2020年9月24日朝刊32面等参照。
*7──なお、同法62条1項は「損失を補償」と規定し、同法63条1項は「損害を補償」と規定するが、被害対象(被害法益)が異なる(前者は財産的損失、後者は声明・身体・健康)からである。西埜章『損失補償法コンメンタール』(勁草書房、2018年)(以下「西埜・損失補償法コンメ」)36頁参照。
*8──法62条1項に定める損失補償の対象に、法24条9項の要請や法45条の要請・指示は含まれていない。
*9──芦部信喜(高橋和之補訂)『憲法 第七版』(岩波書店、2019年)(以下「芦部・憲法」という)248頁、塩野宏『行政法Ⅱ[第六版] 行政救済法』(有斐閣、2019年)(以下「塩野・行政法Ⅱ」という)383~384頁、宇賀克也『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第6版〕』(有斐閣、2018年)(以下「宇賀・概説Ⅱ」という)503頁、西埜・損失補償法コンメ55頁参照。判例(最大判昭和43年11月27日刑集22巻12号1402頁・河川附近地制限令事件(名取川事件))は、刑事事件の傍論ではあるが、憲法29条3項に基づき、直接損失補償を請求する余地があることを認めている。なお、憲法上補償が必要であるであるのに特別の犠牲を課す法律に補償規定がない場合には当該規定は違憲無効であるとする違憲無効説がかつては有力であった(宇賀・概説Ⅱ503頁)が,(直接)請求権発生説が通説・判例となっている現在においては,違憲無効説を主張することの意義は薄いのではないか(西埜・損失補償法コンメ55頁)と考えられる。
*10──なお、憲法29条3項から直接発生する損失補償請求権を裁判上実現するには、実質的当事者訴訟としての給付訴訟を提起することになる(塩野・行政法Ⅱ391頁)。
*11──田中二郎『新版 行政法 上巻 全訂第2版』(弘文堂、1974年)211頁。
*12──藤田宙靖『新版 行政法総論(下)』(青林書院、2020年)(以下「藤田・新版下」という)263頁参照。宇賀・概説Ⅱ500頁も、「損失補償の概念」につき、「必ずしもコンセンサスが存在するわけではない」としつつ、「最大公約数的理解は,適法な公権力の行使により,財産権が侵害され,特別の犠牲が生じた者に対して,公平の見地から全体の負担において金銭で補填するというもの」であると説明する。
*13──藤田・新版下263頁。
*14──板垣勝彦「新型コロナウイルス雑感――自粛要請、休業と補償、都市封鎖――」横浜法学29巻1号185頁(192~193頁)。なお、小山剛「自粛・補償・公表――インフォーマルな規制方法」判例時報2460号145頁(146頁)も、「仮に特措法を改正して強制力のある休業命令を定めたなら、これに対する補償は必要となるのだろうか」などとしていることから、自粛「要請」については、強制力のない手段であって損失補償が問題とならないものと考えているように思われる。
*15──宇賀・概説Ⅱ501頁。
*16──宇賀・概説Ⅱ500頁参照。
*17──情報管理行為(情報の公表行為等)につき、宇賀克也=小幡純子編著『条解 国家賠償法』(弘文堂、2019年)(以下「宇賀=小幡・条解国賠法」という」)67頁〔大橋洋一〕、教示・指導につき、最三小判平成22年4月20日集民234号63頁、宇賀・概説Ⅱ417頁。
*18──最三小判昭和56年1月27日民集35巻1号35頁。行政機関(行政庁)の「要請」を行政指導とみることにつき、橋本博之『行政判例ノート〔第4版〕』(弘文堂、2020年)16~17頁(17頁)。
*19──原田尚彦『行政法要論(全訂第7版補訂二版)』(学陽書房、2012年)131~132頁。
*20──芝池『行政法読本〔第4版〕』(有斐閣、2016年)428~429頁、西埜・損失補償法コンメ17頁、29~30頁。
*21──西埜・損失補償法コンメ17頁。
*22──板垣・前掲「新型コロナウイルス雑感」193頁も、「ただし、今回の場合は、事業者の自由意思とはいっても、かなり抑えつけられた自由意思ではある。この点をとらえて、強制があったと立論することも不可能ではない。」としている。
*23──2021年1月7日毎日新聞朝刊1面参照。
*24──営業禁止(営業中止命令)と損失補償(の要否)については、板垣・前掲「新型コロナウイルス雑感」193~195頁、小山・前掲「自粛・補償・公表」146頁を参照されたい。なお、コロナ禍が「戦争」に例えられることがあるが、法的には、戦争損害と同視すべきではなかろう(板垣・前掲「新型コロナウイルス雑感」195頁も「戦争損害と同視することは困難である」とする。この点につき、小山・前掲「自粛・補償・公表」146頁は「休業命令の対象がほとんどの業種に及ぶ場合には、戦争犠牲ないし戦争損害と同じく(中略)補償を要しないと解されることとになろう」とするが、例えば、公務員や大学の教職員等は、緊急事態宣言が発出されるなどしても、オンラインでの職務・業務を行うなどの変化はあっても、給与が支払われなくなるということは普通はないのに対し、飲食店等を経営する事業者等は廃業せざるえない状況に追い込まれる場合があることからすると、戦争犠牲ないし戦争損害と同じという想定は観念的なものにすぎず、具体的に考えるとおよそ想定できない場合ではないかと思われる。)。
*25──芦部・憲法247頁参照。なお、「公共のために」ならない、すなわち公益ないし社会全体の利益に役立たない財産権制約は違憲となる(長谷部恭男『憲法講話―24の入門講義』(有斐閣、2020年)155頁参照)。
*26──芦部・憲法247頁参照。松井茂記『LAW IN CONTEXT 憲法 法律問題を読み解く35の事例』(有斐閣、2010年)(以下「松井・LAW IN CONTEXT 憲法」という)178~179頁も、憲法29条3項は「典型的には土地収用のように土地所有権それ自体を公共のために剝奪された場合に、正当な補償の支払いを命じたものである。(中略)しかし、29条3項の規定は、土地利用制限のように、土地所有権をすべて剝奪されたわけではないが、所有権を制限された場合にも適用されると考えられる。」とする。
*27──松井・LAW IN CONTEXT 憲法179頁参照。この点に関し、小山・前掲「自粛・補償・公表」146頁は、「感染対策による休業命令」につき、「その財産を『公〔ママ〕のために用いる』(憲法29条3項)ものではない。(中略)休業命令は、単なる禁止であり、その設備等を用いるものではないため、そもそも憲法29条3項の意味の損失補償の対象とはならないと解することもできる。」とする。しかし、休業の禁止ないし自粛要請であっても、事実上営業の機会が奪われたことにより損失を被った場合であっても、所有権制限の場合と同程度の制限を受けていることから「用いる」の趣旨は妥当し、ゆえに「用いる」の要件を満たすのはないかと考えられよう。
*28──松井・LAW IN CONTEXT 憲法179頁の事例も、「停留措置及び強制的入院によって仕事ができず、収入が減ってしまったことに対する損失補償」を求めるものである。
*29──本稿では、「情報」とは記号、符号、文字などを使って表現された文章(一般にはデータとよばれる)が持っている意味や内容のことを意味するものとする。藤原靜雄「情報と行政法」法学教室432号(2016年)8頁参照。
*30──山本隆司「事故・インシデント情報の収集・分析・公表に関する行政法上の問題(下)」ジュリスト1311号(2006年)183~184頁参照。なお,大塚直「未然防時原則,予防原則・予防的アプローチ(5)―今後の課題(1)」法学教室289号(2004年)107頁注8)は、国民への情報提供としての公表行為の違法性等が争われた大阪O-157集団食中毒損害賠償事件(東京高判平成15年5月21日判例時報1835号77頁。詳しくは「2 国家賠償請求の認否」のところで説明する。)に関して「憲法29条3項に基づく損失補償の認められる余地はあろう。」とする。
*31──行政指導の任意性要件につき、教育施設負担金の納付を「事実上強制しようとしたものということができる」とし、「行政指導の限界を超えるものであり、違法な公権力の行使である」とした、武蔵野市教育施設負担金事件(最一小判平成5年2月18日民集47巻2号574頁)等参照。
*32──塩野・行政法Ⅱ385頁,松井・LAW IN CONTEXT 憲法179頁,芦部・憲法247頁参照。
*33──東京地判昭和57年5月31日行集33巻5号1138頁。
*34──西埜・損失補償法コンメ88頁参照。
*35──宇賀・概説Ⅱ505頁等参照。
*36──宇賀・概説Ⅱ505頁参照。
*37──渋谷秀樹=赤坂正浩『憲法1 人権〔第7版〕』(有斐閣、2019年)110頁〔赤坂〕参照。
*38──2021年1月7日朝日新聞朝刊6面参照。
*39──2020年3月29日朝日新聞朝刊1面。
*40──2020年3月29日朝日新聞朝刊7面参照。
*41──なお、精神的苦痛の補償(損失補償)の要否(必要となる可能性)につき、西埜・損失補償法コンメ169~170頁参照。
*42──井上達夫「コロナ・ラプソディー――パンデミックが暴く『無責任の本質』」法と哲学6号(2020年)38~39頁、小山・前掲「自粛・補償・公表」146頁参照。
*43──危機管理とリスク管理の違いにつき、井上・前掲「コロナ・ラプソディー」28~29頁等、予防原則・予防アプローチと未然防止原則との違いなどにつき、大塚直『環境法〈第4版〉』(有斐閣、2020年)55~64頁、北村喜宣『環境法〔第5版〕』70~82頁、予防原則と憲法との関係、予防原則に照らした法規制が市民の権利自由に対する負担感が大きいものとなりうることなどに関し、松本和彦「公法解釈における諸原理・原則の対抗――憲法学から見た比例原則・予防原則・平等原則」公法研究81号(2019年)60頁(68~69頁、71~73頁)等参照。
*44──高畑英一郎「新型コロナウイルス禍における危機管理と憲法」松嶋隆弘ほか編著『事業者のためのパンデミックへの法的対応~コロナ禍で生き残る法律知識のすべて~』(ぎょうせい、2020年)15頁(28頁)も、「公表」(法45条4項)がなされた場合には、地方公共団体による制裁的公表にもなったことから、事実上の強制力があるといえ、財産権を制限する行為の「強度」が強いといえる旨論じる。
*45──宇賀・概説Ⅱ506頁。
*46──最二小判昭和58年2月18日民集37巻1号59頁・地下ガソリンタンク移設事件、最大判昭和38年6月26日刑集17巻5号521頁・奈良県ため池条例事件等。
*47──その他の法令の規定につき、西埜・損失補償法コンメ20頁。
*48──西埜・損失補償法コンメ19頁以下、983頁以下参照。
*49──長谷部=杉田・前掲「コロナ対策、『罰則』と『自由』と」〔長谷部恭男〕、高畑・前掲「新型コロナウイルス禍における危機管理と憲法」28頁、磯部哲「コロナの春」法律時報92巻5号(2020年)1頁(3頁)。ただし、これらの論考等とは異なり、板垣・前掲「新型コロナウイルス雑感」194~195頁は、感染症対策に関し、「損失補償の支払いが正当化」される可能性につき論じている。
*50──大林啓吾「感染症リスクと憲法――新型コロナウイルス流行を素材として」小山剛=新井誠=横大道聡『日常のなかの〈自由と安全〉――生活安全をめぐる法・政策・実務』(弘文堂、2020年)410頁(425頁)は、「たとえば、パンデミックが起き、直ちに緊急事態的措置を行わなければならないことが明らかであるにもかかわらず、経済的影響を優先するあまり、緊急事態宣言が出されず、その結果ますます感染が拡大してしまうようなケース」について言及する。なお、緊急事態宣言を発出するタイミングについては、政策的・政治的な、一定のあるいは広範な時(タイミング)の裁量(行政裁量)があるといえよう。
*51──政府は、2回目の緊急事態宣言に際して、11か国・地域からビジネス関係者等の入国を受け入れている仕組みにつき、「継続」することを決めた。入国継続について、菅首相に「強い思いがある」とのことのようである(2021年1月8日朝日新聞朝刊4面)。このような首相の固い意向は、ビジネス(経済)への配慮というものだけではなく、その背景に2021年五輪開催という意図があるようにもみえる。コロナ感染が急激に拡大する中、ビジネス入国継続という政策的かつ政治的判断を行ったことは、安倍首相(当時)が「多くの中国の皆さまが訪日されることを楽しみにしています」などと情報発信をし春節旅行を呼びかけた行為と重なるように感じられる。1日「約500人」を下回ることが2回目の緊急事態宣言解除の目安の1つとしたこと(2021年1月8日朝日新聞朝刊1面)にも、経済への配慮という面だけではなく、同宣言が長期間続くと五輪開催が危うくなるからという面が見え隠れするように思われる。
*52──大橋洋一『行政法Ⅱ 現代行政救済論[第3版]』(有斐閣、2018年)471頁参照。
*53──奈良県ため池条例事件(最大判昭和38年6月26日刑集17巻5号521頁)。
*54──蟻川恒正「不起立訴訟と憲法一二条」公法研究77号(2015年)97頁(98頁)参照。
*55──北村和生「演習」法学教室347号(2009年)112~113頁(113頁)は、情報の公表行為につき、「実際には、『特別な犠牲』にあたるかといった損失補償の要件を充足する可能性は低く、個別の立法がない限りは損失補償による救済も困難と言えるであろう」とする。
*56──松井・LAW IN CONTEXT 憲法179頁、大塚・前掲注(13)107頁注8)参照。なお、損失補償が必要であるとして、ほかにも、(A)損失補償(「正当な補償」)の内容、(B)損失補償の時期等の問題(論点)があるが、本稿では検討対象とはしなかった。(A)については、芦部・憲法249頁以下、塩野・行政法Ⅱ391頁以下、宇賀・概説Ⅱ516頁以下、西埜・損失補償法コンメ97頁以下を、(B)については、宇賀・概説Ⅱ531頁以下、西埜・損失補償法コンメ199頁以下をそれぞれ参照されたい。なお、(A)につき、財産権の制限に対する補償は、財産権の制限に伴い「通常生ずる損失」(通損)の完全な補償でなければならないものと解される(西埜・損失補償法コンメ141頁参照)が、この通損の範囲をどのように確定すべきかは簡単な問題ではない(山本・前掲「事故・インシデント情報の収集・分析・公表に関する行政法上の問題(下)」184頁参照)。
*57──ちなみに、前掲大阪O-157集団食中毒損害賠償事件では、控訴審段階から、憲法29条3項に基づく損失補償請求の主張が追加されたが、結局、不適法却下となっており、この主張についての実体判断はなされていない。宇賀克也「行政による食品安全に関する情報提供と国の責任―東京高裁平成15年5月21日判決」同『情報公開・オープンデータ・公文書管理』(有斐閣、2019年)345頁(初出は宇賀克也「判批」(本判決解説)廣瀬久和=河上正二編『消費者法判例百選』(有斐閣、2010年)174~175頁(175頁))参照。
*58──「損害」要件(や相当因果関係要件(「によつて」))も問題となるが、本稿では検討対象とはしなかった。同要件については、政府の情報提供行為に関する前掲大阪O-157集団食中毒損害賠償事件の争点(3)に対する判断(判例時報1835頁87頁以下)、宇賀=小幡・条解国賠法145頁〔原田大樹〕、西埜章『国家賠償法コンメンタール 第2版』(勁草書房、2014年)661頁以下を参照されたい。また、「過失」要件も一応問題になるが、例えば、政府の情報提供行為に関する前掲大阪O-157集団食中毒損害賠償事件では、違法性が認められば過失も認められる関係にあるものと判断されたと考えられることから、両要件は実質的には一元的に判断される(なお、違法性要件から判断される場合が多いといえよう)。なお、「公権力の行使」の要件も一応問題になりうるだろうが、国や公共団体が行う情報管理行為(情報の公表行為等)も公権力の行使と捉えられている(宇賀=小幡・条解国賠法67頁〔大橋洋一〕)ため、同要件を満たすものといえる。その他の要件については、塩野・行政法Ⅱ320頁以下、宇賀・概説Ⅱ418頁以下を参照されたい。
*59──芝池義一『行政法読本〔第4版〕』(有斐閣、平成28年)156頁。なお、中原茂樹『基本行政法[第3版]』(日本評論社、2018年)(以下「中原・基本行政法」という)47頁は、「公表については、①情報提供による国民の保護を主目的とするものと、②行政上の義務違反に対する制裁を主目的とするものとを区別する必要がある」とする。
*60──東京高判平成15年5月21日判例時報1835号77頁。
*61──中原・基本行政法47頁。
*62──村上裕章「集団食中毒の発生と情報提供のあり方―O-157東京訴訟控訴審判決を契機として」ジュリスト1258号(2003年)115頁。
*63──宇賀・前掲「行政による食品安全に関する情報提供と国の責任」345頁。また、大阪O-157集団食中毒損害賠償事件判決を比例原則の適用と読む可能性との関係については、土井翼「O-157集団食中毒原因公表事件」法学教室468号(2019年)13頁以下。なお、本判決(東京高判平成15年5月21日)は、政府広報についての事案ではあるが、政府の言論の法理(蟻川恒正「政府の言論の法理」駒村圭吾=鈴木秀美編『表現の自由 Ⅰ―状況へ』(尚学社、2011年)417頁(437~438頁))によって政府の法的責任を緩和しようとしたものとはいえないだろう。
*64──判例時報1835号80頁(本判決匿名解説三(8))参照。なお、市民の不安を解消する目的もあったと考える余地もあるだろうが、同目的については、公表内容を十分に検証する必要がある(瀬川信久「判批」(本判決の原審判決等解説)判例タイムズ1107号74頁参照)。
*65──横田光平「判批」(本判決解説)ジュリスト1269号(2004年)45頁・解説3参照。
*66──村上・前掲「集団食中毒の発生と情報提供のあり方」115~116頁・Ⅳの4(1)参照。
*67──2020年3月31日朝日新聞朝刊1面。
*68──2020年4月1日朝日新聞朝刊28面参照。
*69──藤原・前掲「情報と行政法」12頁参照。
*70──その典型例は、都知事が記者会見で「新宿」の「夜の街」への外出を「控えてほしい」などという呼びかけを繰り返し行い、それが連日のように大きく報道されたことである(2020年7月3日毎日新聞朝刊23面参照。)。
*71──「罰則」といっても、刑事罰ではない「過料」が政府原案のようである。現行の法の要請・指示には公表措置はある(法45条4項)が罰則はない。なお、立法論として
*72──金額が十分か不十分かの判断は容易ではない場合が少なくないと思われるが、欧米等の各国の公的補助の金額等(2021年1月7日朝日新聞朝刊3面等)がひとつの参考になろう。
*73──小山・前掲「自粛・補償・公表」146頁も、休業命令の憲法(22条1項または)29条2項に係る審査につき、比例原則が「過度の制約とならないことに加え、制限に伴う損失に対する調整金を求めることがある」としたうえで、「休業を命じること自体には十分な合理性があるとしても、それが事業者に過酷な負担をもたらす場合」があり、「感染症対策のように経過規定による激変緩和を採りえない場合には、比例原則(狭義の比例性)は、負担軽減のための調整を要求することになる」とする。これは、協力金や調整金がセロだと、憲法(22条1項または)29条2項違反の法令または休業命令(行政処分)となるということを論じたものと考えられる。なお、板垣・前掲「新型コロナウイルス雑感」194頁も、「過剰規制」すなわち「比例原則に反する違法な規制」となる場合を想定していると考えられる。
*74──宇賀Ⅱ・概説Ⅱ433頁以下等参照。
*75──小山・前掲「自粛・補償・公表」146頁。
*76──なお、この持続化給付金等に係る職業差別の問題について、現在、東京地裁で訴訟が係属している(筆者自身も原告訴訟代理人の一人である)。詳しくは、次のサイトを参照していただきたい。https://www.call4.jp/info.php?type=i
*77──「ゆるふわ職業差別」は、曽我部真裕「立憲主義のあり方から見る『自粛か強制か』問題」判例時報2458号(2020年)144頁の「ゆるふわ立憲主義」という語を参考にしたものである。
*78──長谷部=杉田・前掲「コロナ対策、『罰則』と『自由』と」〔長谷部恭男〕。
*79──薬局距離制限事件(薬事法違憲判決、最大判昭和50年4月30日民集29巻4号572頁)。
*80──小山剛「事の性質―最高裁薬事法判決」私の心に残る裁判例2号14頁(15頁)。
*81──小山・前掲「事の性質」15頁は、「職業は、人が自己の職業への誇りを持つ限りで人権であり続ける」とし、職業が「人が自己の生計を維持するためにする継続的活動」となってしまうことは、「人権としての職業の終焉であり、職業は、公序へと後戻りする」と述べている。
*82──憲法16条は、「何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利」を有すると定め、さらに「何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない」と規定している。
*83──市民が政治に参加し、あるいは、直接・間接に政治に影響を与える方法は選挙だけではない。その方法として、まず、日常的な表現・集会・結社の自由や請願権等の人権行使を通じて政治参加を行うことが予定されている(高橋和之『立憲主義と日本国憲法 第5版』(有斐閣、2020年)354頁)からである。選挙で自分の投票した議員(や政党)が負けた(票数が少なかった)ので仕方ないなどとする言説は法的に誤っている。
*84──樋口陽一ほか『憲法を学問する』(有斐閣、2019年)169頁以下〔蟻川恒正〕、平裕介「公道で選挙演説を聴く市民の政治的言論自由と『現在』の市民の『不断の努力』」LIBRA19巻10号(2019年)23頁参照。
*85──改正法による休業命令(行政処分)がなされた場合には、その休業命令に対する処分取消訴訟(行政事件訴訟法3条2項)を提起し、併せて執行停止の申立てをする(同法25条2項本文)という争訟手段もある。
*86──情報提供としての公表は、「特定の者」(行政手続法2条6号)に対するものではなく、国民一般(市民)や住民らへの広報といえることから、同号に定義される行政指導(助成的行政指導(大橋洋一『行政法Ⅰ 現代行政過程論[第4版]』(有斐閣、2019年)273頁))は異なるものと解される。そのため、行政手続法(や行政手続条例)における行政指導の規定(その内容については、さしあたり宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政法総論〔第7版〕』(有斐閣、2020年)437頁以下を参照されたい。)を活用した法的救済は難しいものと考えられる。
*87──なお、政府は、2020年4月1日、個別に損失を補償することは難しいとの認識を示しつつも(2020年4月1日朝日新聞夕刊1面参照)、一世帯に2枚ずつ布マスクを配布すると表明した(2020年4月2日毎日新聞朝刊1面参照)が、費用対効果等との関係で、あるいは他国での政策と比較して、エイプリル・フール特有の報道であってほしいと感じた市民は多かっただろう。2021年においては、すでに話題にならなくなったように思われる通称「アベノマスク」であるが、これも、実質的には、特定の事業者や業界だけを優遇する「ゆるふわ差別」の一環として位置付けられるものではなかろうか。
*88──文化芸術活動の自由を守り抜くために訴訟を提起した具体例として、前掲注(6)の『宮本から君へ』助成金不交付決定取消訴訟、②性風俗事業者への持続化給付金等請求訴訟が挙げられる。

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