ストリートの美術 トゥオンブリからバンクシーまで
アーティストとして活躍する著者による小論集。一部の人にしか読み解けなかったライティング文化とそこから影響を受けた周縁的な文化的実践が、現代美術などのより大きな文化的システムによって包摂されようとするときに、どのようなダイナミクスが発生するのかを多様な現象に着目して解明しようとする。本書が、「ストリート」という言葉ですくい上げようとしているのは、巨大な文化的仕組みからはみ出てしまうような感性である。著者による通史的な著作と合わせて読めば、本書への理解が増すだろう。(岡)
『ストリートの美術 トゥオンブリからバンクシーまで』
大山エンリコイサム=著
講談社|1900円+税
コンテンポラリーアート ライティングの技術
ひとくちに「アートについて書く」といっても、「どの立場から」「何を目的として」「どういった形式で」発信するかによって使うべき技術は異なる。現代美術の世界は難解な言い回しがわかりにくさを助長するふしもあるが、自己満足に終わらないアウトプット方法を身に付けることはあらゆるライティングの基礎だ。学術論文、プレスリリース、アーティストのステートメントなど、硬軟問わずアートライティングの技術を指南する実践的な入門書。時折差し挟まれる皮肉がスパイスとなっていて小気味よい。(中島)
『コンテンポラリーアート ライティングの技術』
ギルダ・ウィリアムズ=著
光村推古書院|3200円+税
YUKIMASA IDA Crystallization
絵具の動きが特徴的なポートレイトで注目を浴びる若手画家・井田幸昌の画集。ポートレイトのほか、彫像や日々の印象を写し取った「End of today」シリーズを収録。適宜挿入される画面の近接写真から、井田の絵画の持つ物質的な魅力を実感できる。読者は、ポートレイトの抽象的な画面から顔がふと浮かび上がる瞬間や、同じ人物を描いた複数の作品を見比べる瞬間に、何かをつかんだ感覚を得るだろう。その時こそ、タイトルが示す作品に描かれた人物や感覚の印象が結晶化したものをとらえた瞬間なのだ。(岡)
『YUKIMASA IDA Crystallization』
井田幸昌=著
美術出版社|10000円+税
(『美術手帖』2020年8月号「BOOK」より)