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2020.8.1

『ファシズムの日本美術』から「絵画検討会」まで。『美術手帖』8月号新着ブックリスト(1)

新着のアート&カルチャー本の中から毎月、注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を取り上げる、雑誌『美術手帖』の「BOOK」コーナー。戦中に活動した4人の日本人画家の作品を「日本ファシズム」という概念を軸に分析する『ファシズムの日本美術──大観、靫彦、松園、嗣治』や、高田マルが主宰する「絵画検討会」の2018年の対話の記録『21世紀の画家、遺言の初期衝動 絵画検討会2018』など、注目の新刊を3冊ずつ2回にわたり紹介する。

評=中島水緒(美術批評)+岡俊一郎(美術史研究)

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21世紀の画家、遺言の初期衝動 絵画検討会2018

 絵画とは何か。愚直とも取られかねない問いを真っ向から取り扱い、複数の作家・書き手と対話や展示を行ってきた絵画検討会。その主宰者である画家の高田マルが新たに出版レーベルを立ち上げた。本書は「絵画検討会2018」に参加した作家や評論家との対話の記録。実体験に基づいた制作論など、高田と参加者のあいだで交わされた膨大なやりとりを余すことなく収録する。絵画をめぐる言葉の積み重ねは必ずしも普遍化を目指すものではないが、だからこそ個々の切実な動機や関心の偏差が興味深く映る。(中島)

『21世紀の画家、遺言の初期衝動 絵画検討会2018』
高田マル=編著
絵画検討社|2500円+税
 

カオス・領土・芸術 ドゥルーズと大地のフレーミング

 英語圏のフェミニスト哲学に影響を与えてきた著者による芸術論。ジル・ドゥルーズの議論や概念をもとに、芸術、とりわけ、建築・音楽・絵画に対する思索が警句的な魅力にあふれた文章でつづられる。本書は、芸術という概念を私たちの感覚を可能にしている物質的な次元と密接な関係を持つものとしてとらえ、抽象的かつ根源的なレベルで論じる。芸術を来るべき未来を創造するための力を呼び起こすものとしてとらえるグロスの論旨は魅力的だが、物質性と性の結びつきを論じる箇所には危うさも感じられる。(岡)

『カオス・領土・芸術 ドゥルーズと大地のフレーミング』
エリザベス・グロス=著
檜垣立哉=監訳 小倉拓也、佐古仁志、瀧本裕美子=訳
法政大学出版局|2600円+税
 

ファシズムの日本美術──大観、靫彦、松園、嗣治

 「戦争作戦記録画」は戦闘の場面を描いた洋画のことだけを指すのではない。一見、政治的な要素が希薄な非戦闘画にもファシズムのイデオロギーは潜んでいる。富士山を繰り返し描いた横山大観、歴史上の人物を巧みに織り込んだ安田靫彦、美人画に戦中の理想的な女性像を投影した上村松園、東北の雪景色に日本的な表象を託す藤田嗣治。それぞれの方法でナショナリズムに接近した4人の画家の作品を「日本ファシズム」なる概念を軸に分析する。海外を拠点とする研究者ならではの、国内外の資料を精査した労作。(中島)

『ファシズムの日本美術──大観、靫彦、松園、嗣治』
池田安里=著・訳 
タウンソン真智子=訳
青土社|2800円+税

『美術手帖』2020年8月号「BOOK」より)