1983年に「ファミリーコンピュータ」、通称ファミコンを発売して以来、家庭用ゲームから創造的な遊びを提案してきた任天堂。その最新ハードが「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」である。最大の特徴は、本体に備わる画面と、家庭のテレビを自由にスイッチ(切り替え)して、ゲームをどこにでも持ち出してプレイできること。一台あれば複数人でも遊べる設計は、感動のシェアや体験の協働性がキーワードになった現代を反映したものだ。
新機能はまだある。本体に取り付けられた着脱式コントローラー「Joy-Con」には、振ったり傾けたりすることで操作するセンサーや、振動機能で繊細な感触を実現する「HD振動」といった多彩な機能が盛り込まれている。前者は2006年発売の「Wii」で導入されたリモコン型コントローラーの機能を飛躍的に向上させたものではあるが、HD振動やその他の新機能との組み合わせは、より広がりのある遊びを実現するだろう。
本体と同時発売の『1-2-Switch(ワン・ツー・スイッチ)』は、任天堂が提案する新しい遊びを実感できるソフトだ。早撃ち勝負や卓球など、Joy-Conを用いた複数のパーティーゲームが楽しめる。同作のプレイスタイルについて、任天堂は「画面でなく、対戦する相手の目を見て遊ぶ」ことを推奨している。例えば早撃ちゲーム「ガンマン」では、「FIRE!」のかけ声を合図に、Joy-Conを拳銃に見立て、相手の胸を狙うスピードを競う。対戦相手の気配に集中する身体的な遊びは、描写力の向上に注力するテレビゲームの潮流とは大きく異なるもので、むしろ昔から子どもたちが親しんできた「ごっこ遊び」に近い。だが、それは単純な懐古主義でもない。先端技術によって再現された触感がもたらす高精細(HD)なリアリティーは、素朴な遊びの模倣を、ほぼ現実と変わらないレベルまで引き上げてくれる。高度な技術を、視覚的な描写力にではなく、身振りや所作といった体験の質に向ける発想の転換。それこそが「Nintendo Switch」の革新性だ。
昨年、世界規模で社会現象化した『Pokemon GO』は、街や自然に人々を飛び出させ、新しい遊びの風景を生み出した。「Nintendo Switch」から生まれる風景を楽しみに待ちたい。
(『美術手帖』2017年3月号「INFORMATION」より)