銀座 蔦屋書店の2018年のクリスマスフェアでは、いつもとは違う、特別なプレゼントを贈りたいと考えている人に向けて、「一点もののアートギフト」を提案。現代美術作品や工芸品、ヴィンテージブックなど、個性的な品々を取りそろえて紹介する。
美術作品や工芸品には、作家の豊かな感性や想像力が込められている。一点一点がまったく異なり、同じものはふたつとして存在しない。
「アートは、言語や性別、年齢や国籍などの垣根を超えることができます。共感する作品があれば、その思いを贈り物に託してみてはいかがでしょう。言葉では伝えにくい思いを、アートの力を借りて相手に届けることができる。それは物を超えた極上のコミュニケーションです」とアートコンシェルジュの有賀昭太は語る。
ヴィンテージブックは、第2次大戦後のパリを中心に盛んにつくられた挿画本を多くピックアップ。作家の版画を入れ込んだ豪華で精巧な古書の数々は目にも鮮やかだ。
「まず、物そのものの美しさに魅せられることでしょう。本はページをめくる動作を伴うので、手に取る人が本の持つ固有の時間に身を委ねることができます。ゆったりと過ごす珠玉の時間をプレゼントできるのが魅力です」と古書担当の和田大和は話す。
思いを伝え、驚きや感動を共有できる体験は何にも代えがたい。「思いを贈る」ことができる、世界にひとつしかないアートギフトは、贈る人、贈られる人、双方にとって、特別な意味を持つものになるにちがいない。
PICK UP
クリスマスフェアのなかでもイチオシの展示企画&ヴィンテージブックをご紹介!
野原邦彦 木の温かみと「幸せ」の空気感
木を中心にブロンズなどの彫刻や平面作品を手がける野原邦彦の作品を展覧会形式で紹介。人と人のあいだの空気、目に見えない固有の時間を、自然物である「木」に彫り込んだ作品は、自由や望みを肯定し、見る人に物語を届けてくれる。身近な題材、鮮やかな色彩に包まれたポップな形はユーモラスで、思わず笑みがこぼれる。木の香りとともに温かみが伝わる作品は、大切な人への贈り物にも最適だ。
(担当者より)一木づくりの彫刻は、その存在感が見事。まずは自分の目で鑑賞し、その独特な作風と迫力にふれてください。
モーリス・ユトリロ『 パリ・キャピタル』(1955) 直筆サイン入り!現代では複製不可能な貴重本
小説家アンドレ・モロワによるパリをテーマにしたテキストに、晩年のユトリロの名所風景画を付した挿画本。オリジナルのリトグラフ10点が入っている。リトグラフは石版に筆で原画を直接描き、そのまま版として刷るため、手描きの質感が伝わる。挿画がとじられていないので、額装して部屋にも飾りやすい。今回入荷されたものにはユトリロの直筆サインが入っており、限定部数197部のなかでもとくに貴重な1冊。(240万円+税)
ARTWORK
大切な人へ、または自分自身へ「作品を贈る」ことで、アートを身近に感じる生活を始めてみては?
小出ナオキ 愛らしさと不気味さが同居する
セラミック、FRP、木などを用い、自伝的でありながら、鑑賞者の記憶を刺激する作品。キャラクター性のあるコミカルで愛らしい造形のなかに、愁いや悲しみ、不気味さが潜む。(50万円+税)
三嶋りつ惠 周りの光を取り込み空間と調和するガラス
粘性の高いヴェネチアンガラスの特性を活かし、イタリア・ムラーノ島のガラス職人との協働により制作。今回は透明なガラスの内側に銀を流し込んだ「宇宙の雫」シリーズを展示する。(45万円+税)
大竹利絵子 無彩色の木彫が発する繊細さ、強さと気品
少女や鳥のモチーフを木彫で表現。荒削り、素地仕上げの手法で、木に潜む繊細な表情を引き出した作品は、叙情あふれる物語を想起させ、神秘的な世界へと誘う。(65万円+税)
小林正人 自伝と作品、併せて楽しみたい
キャンバスを張りながら手で直に描くという、支持体の組み立てと描画を同時に行うスタイルが特徴。ベルギー・ゲントを拠点に活動し、2006年に帰国。絵画作品のほか、12月に自伝的小説も出版予定だ。(32万4000円+税)
渡辺おさむ 本物らしさに驚くスイーツモチーフ
生クリームやフルーツなどのフェイクフードを駆使した、理屈抜きで視覚的に楽しめる、かわいくておいしそうな作品群。今回は新作も発表予定だ。(30万円+税)
松岡亮 アート作品としてのテディベア
指先で描く絵画、即興的に縫い込まれた刺繍、ヨウジヤマモトとのコラボなど、多彩な表現方法で知られる作家によるテディベアのぬいぐるみ。1点1点にペインティングを施した手製だ。(8万8000円+税)
VINTAGE BOOK
いまでは貴重となったリトグラフ作品、コロタイプ印刷の挿画本や、アートブックの数々をセレクト。
藤田嗣治『 日本八景(普及版)』(1927) 日本各地の名所のデッサン47点を収録
作家のキク・ヤマダが仏語でテキストを執筆し、藤田の挿画で日本の名所を紹介。厳島神社、青山墓地、成田不動尊など、土地の風景や風習を生き生きと伝える。版画付き豪華本の普及版。(10万円+税)
モーリス・ド・ ヴラマンク『 オート・フォリー』(1964) 画家自らが手がけた小説の世界を表現
ヴラマンク自身が執筆した、老夫婦が主人公の小説『オート・フォリー』の挿画本。フランス郊外の風景画48点(リトグラフ)は力強く、空気感があり、質が高い。エディション260部の貴重本。(70万円+税)
マリー・ローランサン『 椿姫』(1937) 女性像の魅力を満喫できる挿画本
アレクサンドル・デュマ『椿姫』の挿画本。コロタイプによる12点を収録。すべて、いかにもローランサンらしい、愛くるしい女性たちの姿が、美しく柔らかな色彩で表現されている。(17万円+税)
マルク・シャガール『 パリのオペラ座の天井』(1965) クラシック音楽好きにも愛される1冊
パリ・オペラ座の天井画を完成させた翌年、刊行されたエスキース集。歴史上の音楽家から着想を得た天井画のポスターと、チャイコフスキー「白鳥の湖」を取り上げたリトグラフ作品を備える。(40万円+税)
(『美術手帖』2018年12月号より)