ギャラリーに入りまず目に飛び込むのは、2体のホッキョクグマの作品。等身大のクマはそれぞれ白と青の色の羽からなり、異なるポーズをとる。中庭に面した大きなウィンドウを眼前に宙に浮かぶ2体のクマは、まるでギャラリーを訪れるための目印のようにも見える。
「白いホッキョクグマの作品《Too late》は、このシリーズでは一番大きなもの。クマがジャンプをしたあとの“もう後戻りはできない”といった状態をイメージしています。その隣の青いホッキョクグマは、《I am busy today》。イタリアの老舗デパートのショーウィンドウでの展示のために制作したのが始まりでした」。
いずれのクマも大らかながら緊張感のある姿勢で、どこか別の場所へと向かおうとしているかのような姿が印象的だ。
「人間のそばでホッキョクグマが生活しているのではなく、人間がホッキョクグマのテリトリーのなかに住んでいる。アラスカに20年間暮らしていた私は、いつもそう実感していましたし、遠くにいてもその存在を近くに感じられるほどの強いパワーを、ホッキョクグマが持つことに感銘を受けていました。アラスカの生活を通して、彼らは私の作品にとって重要なモチーフの一つになったのです」。
他方、力強い存在でありながらも、温暖化とそれにともなう氷の減少で絶滅に瀕しているホッキョクグマ。そうした現実も、ピヴィがホッキョクグマを作品に取り入れる理由に少なからず影響を与えているという。
今回の個展タイトルにもなっている、ギャラリーの壁に一列に並び回転するシリーズ「They all look the same」。大小様々な自転車のホイールと鳥の羽が用いられたこのシリーズは、1点につき1羽分の鳥の羽を使用・今回の展示のためにキジの羽を使った作品もあるという。「ドリームキャッチャー」を思わせる見た目と、振り子のように一定の回転を続ける本シリーズについて、「時間、催眠術、色など、様々な要素が入っている。例えるならば、日本の俳句のような作品だと思っています」とピヴィは話す。
「They all look the same」の一点一点には「I am adopted」「I’m the youngest in the family」「Same mother」「Sorry for being late」など、人間にまつわる関係性を思わせるタイトルが冠されている。「この作品やタイトルを見てどう思うか、解釈は自由です。ひとつ言えることは、羽、車輪、動きの3つの要素は私の作品の“レシピ”であり、必然的なもの。羽と車輪は一見異なるものですが、いずれも軽くて強くて、何かを動かすために存在している。役割としてはすごく似通っていますよね? 片方は人工的、片方は自然という違いがあるだけなんです」。
ピヴィは色選びにおいても、人工的なものも自然的なものを融合させ、色と色とを「対話させている」と話す。そして、そうした「対話」とそこから生まれる調和は、今回の個展においても見ることができる。ピヴィの展示は、作品を設置し、作品と周囲の環境を共存させることからスタートするのだという。
「今回の展示にあたっては、ペロタンの大きなウィンドウを生かし、街とギャラリーを一体化させたいと思いながら作品を設置しました。そのことにより作品がギャラリーのなかだけで完結せず、外へと展開し、街を含めたすべてがひとつの展覧会になる。みなさんにもそんな“対話”を意識しながら作品を楽しんでいただけたら嬉しいです」。