川島小鳥が切り取る“境界の一瞬”

1人の少女を撮り続けた写真集『未来ちゃん』や、台湾を拠点に撮影した『明星』で知られる写真家・川島小鳥。初となる大型個展「境界線で遊ぶ」が、金津創作の森(福井)で開催された。

文=山内宏泰

写真集『未来ちゃん』より© Kotori Kawashima

 「言葉以前」の世界に住む幼女の、とてつもない愛らしさとエネルギーを撮った『未来ちゃん』。台湾の若い男女の姿を瑞々しく切り取る『明星』――常にポップで明るい画面をつくり上げる写真家の川島小鳥が、美術館で初の大型個展を催している。

写真集『明星』より
© Kotori Kawashima

 

 「これまで作品ごとの展覧会はたくさん開いてきましたが、全部を見せるのは初めてなので、楽しい反面大変さもあった」。そう語るように、今回は被写体主義ではなく、自身の写真の持ち味をはっきり提示せんとした。とはいえキャリアは10年あまり、回顧展めいたことはしたくない。「新しい角度から自分の写真を眺められたら」と、写真集制作などで親交のあるアートディレクター、祖父江慎に、展覧会づくりへの参画を依頼した。

 祖父江が挙げた切り口は、タイトルにもなっている「境界線で遊ぶ」というもの。「言われてみれば、人やものが変化するときをいつも撮ろうとしてきました。写真で境界線上を行き来している感覚は強くあります」。『未来ちゃん』では、動物的な幼児が人らしくなるまでの姿が、新刊写真集『ファーストアルバム』には、大人になる直前の少女の危うい煌めきが詰まっている。境界線上でぎりぎりバランスを保っているものの、次の瞬間には消え失せているような、儚く繊細な美しさをとらえる川島作品。「そのあたりを形に残せるのが、写真の特性だと思いますしね」。

写真集『ファーストアルバム』より
© Kotori Kawashima

 会場を巡ると、子どもや少女たちの活きた表情が強く印象に残る。不思議に思う。なぜこんな顔が撮れるのか。

 「僕が写真でやりたいのは、現実そのものを表すことじゃなくて、ファンタジー。見たいものや見せたいものだけでイメージをつくりたいとは思っています。それに、被写体のことはいつもすごいな、かっこいいなって尊敬しています。写真は世界を切り取っていくものだけど、それは相手や、その人のいる世界を肯定すること。僕が丸ごと肯定した世界の破片の集まりが、この展示なのかなと思います」。

 雨上がりに水たまりを覗き込むような眩しさが、会場にいる間も立ち去った後も続く。川島小鳥が生み出すファンタジーの世界から抜け出せなくなるのではとひんやりする。

PROFILE

かわしま・ことり 1980年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部仏文科卒業後、沼田元氣に師事。2007年、写真集『BABY BABY』刊行。10年に『未来ちゃん』で第42回講談社出版文化賞写真賞、15年に『明星』で第40回木村伊兵衛写真賞を受賞。16年12月7日、最新作『ファ ーストアルバム』を発売。

『美術手帖』2017年3月号「INFORMATION」より)

編集部

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