EXHIBITIONS

ADRIANA OLIVER “This Time, Tomorrow”

2022.04.08 - 04.24

アドリアナ・オリバー THIS TIME TOMORROW 2022

 バルセロナを拠点に活動するペインター、アドリアナ・オリバーによる個展「This Time, Tomorrow」が渋谷のSAIで開催される。

 1990年、彫刻家の家系に生まれ、幼少期よりアートが隣接した環境で育ったオリバーは、絵画を描く以前に写真家としてアーティストのキャリアをスタートさせた。

 その後、作品の色の扱いや筆の使い方に制限のないペインティングに表現の可能性を見出し、ペインターとしての制作活動を開始。落ち着いた色使いと世界観で描かれるポートレイト作品を描き、これまでヨーロッパ各地、アメリカ、カナダ、ブラジル、台湾などのギャラリーで展覧会を開催してきた。その作品は国内外のアートマーケットやカルチャーシーンで大きな注目を浴びている。

 普段の生活に存在する様々な要素からインスピレーションを受け、50・60年代に撮影された写真やシネマトグラフィをモチーフに制作を行うオリバー。一見すると、その手法には安定した一貫性が見られるが、「私はこれまで、自分のキャラクターにアイデンティティを与える必要性を感じたことはありません」と話すように、オリバーの描く作品は、かつて優美な肖像が存在した時代背景とは異なるストーリーを持ちながらも、視覚的な個性が失われているポートレイトという興味深い構造を成している。

 またオリバー作品独自の構造は、作家自身がこれまで制作のうえで重きを置いてきた要素のひとつである、ジェンダーをフラット化するアプローチでもある。

 主に表情を読み解くうえで大きな役割を持つの「目」を描かず、対象をグラフィカルに描くスタイルも、作家の言うアイデンティティの不在を強調する役割を果たしている。表情を抜き取られた作中の登場人物は、過去ポップ・アートが継承してきた大衆性や視覚的インパクトを体現し、それと同時に情報社会の下、相対でのコミュニケーションが困難になりつつある現代的な匿名性の相関も感じることもできる。

 日本での約2年ぶりの個展となる本展では、3メートルの大型平面作品、ブロンズ製の立体作品をはじめ、すべて新作のアートピースが空間を囲む。また、本展に合わせ制作されたエディション付きの小型立体作品、関連グッズも販売される。

 展覧会のタイトル「This Time, Tomorrow」には、「どんな状況でも、どんなときでも、いつも誰かのそばにいたい。存在したい」という愛のメッセージが込められている。世界情勢に大きな変動の見られる昨今、オリバーの描く作品は穏やかでありながらユニークな存在感を放ち、見る者に改めてアートの持つピースフルな力を届ける。