EXHIBITIONS

ジャスティーン・ヒル「Alternates」

ジャスティーン・ヒル Replica 3 2020

ジャスティーン・ヒル Replica 1 2020

ジャスティーン・ヒル Still Life 6 2021

 MAKI Galleryでは、ブルックリンを拠点に活動する作家、ジャスティーン・ヒルの個展「Alternates」を天王洲 Iのギャラリースペースにて開催する。

 1985年、ニューヨーク州タリータウンに生まれたヒルは、色や明度、透明度によって異なる原始的なマークやかたちを引用した抽象絵画を制作することで知られている。その形状や鮮明度は、物理的で 恒常的でありながらデジタルペインティングのツールを彷彿とさせ、いくつものレイヤーが重ねられている。

 ヒルは、私たちが慣れ親しんでいる伝統的な長方形の絵画と並行して、「Cutout(切り取り、切り抜き)」と自身が呼ぶユニークな形状のキャンバスをいくつも組み合わせた作品も制作。長方形キャンバスの制約を超えて発展する構図を追求した不定形キャンバスの組み合わせは、鮮やかな色合いのジェスチャーマークで装飾されており、その多くは作品全体にリズム感を与える反復したパターンを特徴のひとつとしている。これらのペインティングをつくり上げる自由なかたちたちはランダムで衝動的に見えるかもしれないが、実際には数ヶ月、時には数年の準備や研究によって生まれている。

 またヒルは近年、自身の境界を広げることを試み、アクリル絵具や色鉛筆、パステル、オイルスティック、手刷りなどますます多様な画材や技法を取り入れている。とくに、コラージュを採用することで作家はコントロールを保ちながらも自由度を高め、ペイントした紙をキャンバスに重ねることにより、筆づかいの配置を「編集」できるようになった。

 本展は、2020年に表参道のMAKIで開催された初個展「Pull」に基づいて構成される。今回、ヒルの遊び心にあふれた絵画を広大な空間に展示し、より多方面からの作品鑑賞を可能にする。

 ヒルの作品はよく一連の作品群として発表され、本展においては「Bookend」と「Replica」シリーズがもっとも多く登場する。作家のこれまでで最大の作品群である「Bookend」は、図・地・背景の3つの要素を持つ抽象的な風景で構成され、かたちたちはしっかりと密着しており、見る人は木や山、または岩をその象形的なフォルムから見て取ることができる。対照的に、より抽象度の高い「Replica」シリーズは豊富なネガティブスぺースと、ペインターのマリナ・アダムスによる作品を直接引用している。いずれのシリーズでも、各作品は繰り返されるパターンで覆われた複数のキャンバスからなり、入れ子のように幾度も反復するかたちのなかに存在している。

 ヒルは、意図的であろうとなかろうとあらゆる作品は無数の情報源から特性を継承しており、アーティストは決してゼロから始めることはないと信じている。ひとりではアートを創出できないという認識を、ヒルは「Cutout」の作品に具現化している。