EXHIBITIONS

アナ・ウェイヤント「Splinter」

2022.01.29 - 03.12

アナ・ウェイヤント Lily 2021
Anna Weyant, Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo
Photo by Genevieve Hanson

アナ・ウェイヤント Drawing for Sweet Painted Lady 2021
Anna Weyant, Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo
Photo by Genevieve Hanson

アナ・ウェイヤント Drawing for Monster 2021
Anna Weyant, Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo
Photo by Genevieve Hanson

アナ・ウェイヤント Drawing for Lily(Gun Study), 2021
Anna Weyant, Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo
Photo by Genevieve Hanson

アナ・ウェイヤント Drawing for Lily 2021
Anna Weyant, Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo
Photo by Genevieve Hanson

アナ・ウェイヤント Drawing for Glory Days 2021
Anna Weyant, Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo
Photo by Genevieve Hanson

アナ・ウェイヤント Monster 2021
Anna Weyant, Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo
Photo by Genevieve Hanson

アナ・ウェイヤント Glory Days 2021
Anna Weyant, Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo
Photo by Genevieve Hanson

アナ・ウェイヤント Girl Crying at a Party 2021
Anna Weyant, Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo
Photo by Genevieve Hanson

 BLUM & POE 東京では、ニューヨークを拠点とする作家、アナ・ウェイヤントの個展「Splinter」を開催する。

 アナ・ウェイヤントは、1995年カルガリー、カナダ⽣まれ。ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン(ロードアイランド州プロビデンス)にてBFAを修了。これまで「Loose Screw」(Blum & Poe、ロサンゼルス、2021)、「Welcome to the Dollhouse」(56 Henry、ニューヨーク、2019)といった個展を開催してきた。

 ウェイヤントは、本展で紹介する作品群において、アメリカの女性向けケーブルチャンネル「ライフタイム」局の映画や、90年代のセレブ文化といった視覚的な引用を用い、ポップカルチャーというテーマを掘り下げる。女性を侮蔑や性の対象として扱い、同時にステレオタイプに描いてきたテレビ向け映画に関心を持ったウェイヤントは、このジャンルのテレビ向け映画にありがちな誇張的にアメリカ郊外の闇を描くようなストーリーテリングを作品上で模倣している。

 本展に登場する5点の紙作品および4点の絵画作品のなかには、「キラキラしたパーティのひどいありさま」といったストーリーが語られている。そのダークでファンタジー的な世界観のなかで、画中の主題を統制しながらも嘲笑うようにくるくると浮遊する金リボンや、可憐な花がしおれた姿が描かれているいっぽうで、《Girl Crying at a Party》(2021)はその光景を見渡すような視点をもって描かれている。

《Monster》(2021)や《Drawing for Monster》(2021)は、エミネムのヒット曲「Without Me」(2002)の「俺はモンスターを創った だって誰も望んでない マーシャルはもう見飽きた 皆が欲しいのはシェディ 俺は切り刻まれた肝臓みたいに意味がない」というリリックを引用元としてタイトルが付けられた作品だ。そこでは、肉のような球根状の形態に見える複数の風船と光沢のある金リボン、それにぶら下がるソーセージの様子がとらえられている。作品に登場するぶら下がった肉のかたまりは、歌詞にある「切り刻まれた肝臓」の隠喩とも考えられるだろう。

「Splinter(トゲ)」と名付けられた本展で、ウェイヤントが描写する奇妙なパーティの装飾は、その着想元である「ライフタイム」チャンネルのテレビ映画がまとう奇妙な暴力性が確かに想起されている。作品中の花々は、だらりと垂れ、不完全な状態として欠陥とともに美しさをもったオブジェクトとして存在する。《Lily》(2021)や《Drawing for Lily》(2021)では、伝統的に純潔さや多産・繁栄のシンボルと考えられてきた白い百合の花が登場するが、そこで描かれているのは去勢されたように雌しべが切り取られた様子や、いまにも花弁が落ちそうな姿だ。

《Glory Days》(2021)や《Drawing for Glory Days》(2021)では、花瓶に挿した4本のしおれた薔薇が描かれ、そのうちの1本には《Monster》にも登場する同一の金リボンがくくり付けられている。ウェイヤントは、金リボンというモチーフによって、作品中の架空の世界がはらむ矛盾や、超現実的な「郊外」とも呼べる場所の存在を暴きながら各作品の主題を巧みに操っていく。

 さらに、アメリカ人モデルであるアンナ・ニコル・スミスの広く流通したイメージから着想を得た《Girl Crying at a Party》(2021)は、「不気味さ」の追求というウェイヤント特有のアプローチをはっきりと示した作品。

 涙を流す有名人、それも西洋における美の基準を明確に目指していたような女性についての比喩的なイメージの提示は、期待でのしかかってくる重荷や、現実と想定との乖離(もしくは、分裂)から生じた反動を暴き出す矛盾的な状況といった事柄についてのニュアンスを帯びている。ウェイヤントは、このようなまったく予期しなかった現実という「不気味な」本質をもって、並列的な展示構成を通じて、人々が持つ強迫観念を指摘し、掘り下げる。