EXHIBITIONS

丸橋光生個展「S ‘N R / S S ‘N C / W W 2」

丸橋光生 やわらかくて、とじている何か 2017

丸橋光生 Statues and Rods (像と棒) 2019

 ギャラリーヤマキファインアートでは、丸橋光生(まるはし・みつお)の神戸初個展「S ‘N R / S S ‘N C / W W 2」を開催する。

 丸橋は1982年京都都生まれ、現在は広島を拠点に活動。「認識は経験からなる」をキーワードとして、彫刻を起点にインスタレーションや映像など、メディアを軽やかに飛び越えて縦横無尽に模索し表現する注目のアーティスト。視覚と認識がテーマの作品は、私たちが普段何気なく行っている「視る」「認識する」という行為について意識を向けさせるとともに、いかに人々の認識が不確かなものかということを問いかける。

 作品シリーズのひとつである「Statues and Rods(像と棒)」において丸橋は、「立体的な閉鎖性(*1)」「凝密性(コンパクトネス)(*2)」といった彫刻の特性とされる概念から出発し、彫刻に限らない「もの」の「充実感」「充足感」といったものに問題意識を広げ、それらを毀損(きそん)させることを試みるインスタレーションを展開してきた。また映像作品の「窓洗い」のシリーズでは、延々と窓を洗い続ける映像を映すことで、鑑賞者にモニターのなかの世界と私たちがいる現実世界の境界面を意識させ、そして、物体にそれそのものを指し示す文字を貼り付ける「文字とイメージ」のシリーズでは、イメージと文字が意識のなかでささやかな衝突を起こすことで、愉快かつ奇妙な混乱を鑑賞者にもたらす。

 このように一貫して通常の視覚体験からの逸脱を図ってきた丸橋は、それが自身にとっても悦びだと言う。2021年11月には、広島市現代美術館での参加型作品《どこかの窓洗い》において、鑑賞者のスマートフォンやパソコンの端末上に作品を展開することで、コロナ禍における美術作品と鑑賞者とのコミュニケーションの新しいかたちを提示した。

 ギャラリーヤマキファインアートでの初個展となる本展は、丸橋のこれまでの作品から新作まで約10点を展示。客体化(作品化)された身近なものたちは、タイトル「S ‘N R / S S ‘N C / W W 2」のように一見意味を持たない何かとして、鑑賞者へささやかな混乱を生じさせ、視覚認識することにおいて新たな側面をもたらすだろう。

*1──ウィルヘルム・ヴォリンゲル『抽象と感情移入』(1908)に登場する概念
*2──ハーバード・リード『彫刻とはなにか』(1956)に登場する概念