EXHIBITIONS

アレキサンダー・ティネイ「Saved for fire」

2021.09.28 - 11.27

アレキサンダー・ティネイ Red boots 2021

アレキサンダー・ティネイ Horse 2021

 モルドバ出身のアーティスト、アレキサンダー・ティネイの個展「Saved for fire」がアンドーギャラリーで開催されている。日本での3回目の個展では、新作絵画9点余りを展示。

 ティネイは1967年生まれ。91年キシナウ・レーピン・ステート・カレッジ・オブ・ファイン・アート卒業。身体に神秘的な青い線が描かれた若者の肖像画で知られ、その魅惑的で謎めいた絵画によって国際的な評価を獲得してきた。

 ティネイは近年「ルーツ」をテーマに作品を制作している。植物や木々を支える根、民族や文化の源泉といったこの言葉の豊かな喚起的性格と、それが描き出す複数のイメージは、作家にとって理想的な探求の源となっている。

 旧ソ連の衛星国モルドバで育ったティネイは、モルドバ語ではなくロシア語をしゃべり、ソ連軍で2年間の兵役に従事した経験を持つ。ロシア語話者として、ロシアのおとぎ話を聞き、ロシアの英雄や文学的・芸術的な威光を学んで育ったが、ティネイはモルドバ人である自身の新たなアイデンティティを探し始め、それをキリスト教の信仰のうちに見出した。そしてティネイは西側諸国を旅し、より最近の美術史や現代美術の実践を発見するにつれて、自身の「ルーツ」の体系はさらに拡張していった。知識のみならず制作の地平までも広がり、近年その作風は自由度を増してきている。

 私たちのルーツがますます複雑なものとなった現代。そこでは共同体や家族は以前ほど信頼のおける単位でなくなり、社会は若者たちに対して分裂と喪失の感覚を広めることになった。ティネイもまた、そのような経験をしてきたと言う。

 過去の作品において、ティネイが若者の身体に描いた青い線は、一見すると刺青や部族の刻印を連想させるが、実際は感情を表現する記号であり、現代を生きる若者たちの苦痛や喪失を象徴したもの。ティネイの絵画は、「たとえ私たちが自身を支えるための新たなルーツを必要としているとしても、いまや私たちの生は予測不可能であり、それに立ち向かうことを学ばねばならない」ということを示している。