クリスチャン・レックス・ヴァン・ミネン「Mystic Wipe Out」

　アメリカ人アーティスト、クリスチャン・レックス・ヴァン・ミネンの日本初個展がNANZUKA 2Gを皮切りに3会場で開催。会期は「Mystic Wipe Out」（NANZUKA 2G、8月20日～9月12日）、「Thought Forms」（NANZUKA 2G／3110NZ by LDH kitchen、8月24日～9月18日）、「It Comes In Waves」（NANZUKA UNDERGROUND、8月28日〜9月26日）。

　ヴァン・ミネンは1980年アメリカ・ロードアイランド州プロビデンス生まれ。2002年にレジス大学学士課程を修了し、現在はカリフォルニア州サンタクルーズを拠点に活動。近現代のニューエイジ的な神秘主義、デスメタル、ポルノ、タトゥー、インターネット・ミーム、サーフ・カルチャー、SNSといった21世紀の多様で混沌とした文化の要素を取り込んだ孤高の作品を生み出している。

　タトゥーをまとった肉塊や生命を宿したゼリーが乱舞する摩訶不思議な画面。グロテスク趣味の境地とも呼べるヴァン・ミネンの際立った作品の背景には、15世紀フランドル地方で独自の発展を遂げた油彩絵画の古典的な技法への踏襲がある。とくにヴァン・ミネンの作品との親和性という点では、ヒエロニムス・ボスの《快楽の園》は、作家にもっとも重要な啓示を与えた1点と言える。

《快楽の園》に描かれている「快楽に溺れて常軌を逸した行動を取る人々」「欲望の果てに変体した人々」「地獄で喰われる人々」の様相は、かつてはキリスト教における戒律や教訓を示すものだった。しかし現代では、超現実的な想像力やブラック・ユーモア、多様性への理解、偏見への反抗、あるいはカタルシス作用といった別の軸を持って解釈することも可能となっている。そしてヴァン・ミネンは、それを「アイデンティティの解剖図」と称している。

　私たちの心の暗部を見つめ、恐れや偏見を分類すること、人種や階級、セクシュアリティといった枠組みを解体してとらえること。ヴァン・ミネンは、透明で艶のある薄い顔料を幾層にも塗り重ねると言う600年前に開発された技法を用いて、暗闇のなかでこそ光り輝き、真価を発揮する幻想的な安堵（あんど）を表現しようとしている。

　本展は、NANZUKA初となる東京3会場での同時期個展。NANZUKA 2Gでは、サーフボード・ペインティングを、また3110NZ by LDH kitchenではモノタイプ版画の技法を駆使して制作されたユニークな作品を展示する。