EXHIBITIONS

磯谷博史

「さあ、もう行きなさい」鳥は言う「真実も度を越すと人間には耐えられないから」

SCAI PIRAMIDE
2021.09.09 - 10.16
 磯谷博史の個展「『さあ、もう行きなさい』鳥は言う『真実も度を越すと人間には耐えられないから』」が、六本木に今年オープンしたSCAI PIRAMIDEで開催される。

 磯谷は1978年東京都生まれ。東京藝術大学建築科を卒業後、同大学大学院先端芸術表現科およびロンドン大学ゴールドスミスカレッジ、アソシエイトリサーチプログラムで美術を学び、写真、彫刻、ドローイング、それら相互の関わりを通して、事物への認識を再考してきた。

 iPhoneで撮影した気まぐれな実験や旅先の発見など、宛名のない手紙のように行き交う親密でパーソナルな写真の数々、マットレスとマットレスの写真による反復的なインスタレーション、壁に描かれた動かない時計。磯谷は特殊な方法を用いず、自らの生活圏から拾い上げた素材で、鋭い状況の構成と知的パズルを生み出す。過去から未来へと一方向に進む時間軸のイメージに介入し、作品を通じて複数の視点を並べることで、現在の認識を揺さぶる創造的な手段を示してきた。

 T・S・エリオットによる長編詩『四つの四重奏』(1943)の一節を参照する本展は、こうした生活者の風景から文明への静かな警告となって立ち上がる。

 新作《活性》では5000年前の土器の破片を泥に戻し、バスケットボールほどの大きさの球体に焼き上げることで、時間が凝縮された古代の遺物を再編成。オレンジ色の発光が周囲を包むインスタレーション《花と蜂、透過する履歴》(2018)では、ミツバチの膨大な労働力の結晶・蜂蜜で満たされたガラス瓶に集魚灯を落とし込み、建築用のLED照明を光源にホワイトキューブを赤く染める《同語反復と熱》(2021)では、月明かりと間違え飛行する昆虫がライトを打つ様子を、点の連続であるチェーンで描いている。

 エリオットの現代の生活圏と記号が行き交うタイムレスな象徴世界のように、本展では様々な言語やイメージが駆け抜け、複層的な世界が同時に展開される。

※本展の来廊は予約制、状況により入場制限を行う場合あり。SCAIのウェブサイトにて最新情報を要確認。