EXHIBITIONS

ホンマタカシ「New mushrooms from the forest」

2021.07.10 - 08.07

ホンマタカシ Scandinavia #9 2015 ©︎ Takashi Homma Courtesy of TARO NASU

 ホンマタカシの個展「New mushrooms from the forest」がTARO NASUで開催される。本展は、ホンマがキノコを主題に撮影した「その森の子供」シリーズの大判プリント12点を展示。

 ホンマは1962年東京都生まれ。99年に写真集『東京郊外 TOKYO SUBURBIA』(光琳社出版)で第24回木村伊兵衛写真賞を受賞。近年の主な個展に、「Eye Camera Window : Takashi Homma on Le Corbusier」(カナダ建築センター、モントリオール、2020〜21)、「La citta narcisista. Milano e altre storie」(VIASATERNA、ミラノ、2017)などがある。

 2011年に発生した東日本大震災、そして福島第一原子力発電所事故。同年秋、日本政府は福島県や放射能汚染が著しい東北〜中部地方の森に生える野生キノコの摂取・出荷を制限した。ここからホンマのキノコをめぐる旅が始まった。以降、ホンマは断続的に福島県の森に入ってキノコを撮影するようになり、やがて撮影地はスウェーデン、フィンランド(2011〜15)、さらにチェルノブイリ(2017)へと進んだ。次第に放射能汚染という視点からも離れ、キノコを愛した実験音楽家ジョン・ケージの足跡をたどってアメリカ・ニューヨーク郊外のストーニーポイント(2017〜18)にまで撮影地を広げていった。

 ホンマは、「僕はこれら4つの森に入って、その森のキノコ達の微小な声に耳を澄ませた。実際、そうすることしかできなかった。そこには確かに、いくつかの音の波があった。そしてそれらは、4つの森にお互いに響き合っているとしか思えなかった」と言う。

 ホンマの写真は、キノコの繊細な色彩と個性的な造形をあらわにする。ひとつの個体、あるいは肩を寄せ合うように集まる複数の個体として撮影されたその姿は、「その森の子供たち」の「肖像画」として、人間とは異なる位相に生きる生き物の世界の息遣いを伝えてくれる。

 静謐な光のなかにとらえられたこれらの「肖像画」の背景には、複雑に絡み合う現代社会の矛盾が存在する。キノコのみずみずしい生命力はいまなお残存するはずの、見えない汚染という影をたずさえてなお、自然の治癒力の象徴であるかのように明るく輝く。だが同時にそれは、淡々と刻まれていく日常のなかで人間が忘れてしまいがちな喪失と恐怖の記憶の生き証人とも、さらにはケージが探求した超自然的なエネルギーの眩惑や独自のアナキズムの象徴ともなりうる。