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金子富之展「辟邪(へきじゃ)の虎」

金子富之 大舞虎 2019 © KANEKO Tomiyuki Courtesy of Mizuma Art Gallery

 画家・金子富之がミヅマアートギャラリーでは4年ぶりとなる個展を開催。本展「辟邪(へきじゃ)の虎」では、魔を払う力を虎の造形に集約し、発表する。

 金子は1978年埼玉県生まれ。2009年東北芸術工科大学大学院芸術工学研究科博士課程修了。山形を拠点に制作を行い、主に妖怪や精霊、神々など、目に見えない精神的な存在の実体化を続けている。15年には文化庁新進芸術家海外研修制度により、アンコール・ワットで知られるカンボジア、シェムリアップで上座部仏教やヒンドゥー教、精霊信仰などの造形美術に触れ、スケッチを重ねた。

 金子の今作にかかわる「辟邪絵(へきじゃえ)」は、古来、中国やインドなどで信仰された疫鬼を退治する善神が描かれたもの。例えば、奈良国立博物館所蔵の国宝《辟邪絵》では天刑星、乾闥婆、神虫、鍾馗、毘沙門天が強い力を持つ辟邪神として描かれている。その毘沙門天の神使とされる虎もまた、力強さや子を大切に守り育てることから、アジアを中心に魔除けや病除けとしてその造形を用いられてきた。江戸時代後期に日本でコレラが流行した際には、張子の虎がお守りとして配られ、いまでも大阪では端午の節句に張子の虎を飾る風習が引き継がれている。

 金子は108体の毘沙門天が祀られている岩手県平泉の達谷窟(たっこくのいわや)毘沙門堂を訪れた際に、その神使である虎を数多く描きたいという強い衝動を覚え、近年は集中的に虎を描き続けてきた。

「風は虎に従う」という中国の故事をもとに、宮城県に火伏せ祈願として伝わる「虎舞」の取材から《大舞虎》を制作し、もうひとつの作品《始まりの獣王》は、王と妃、四人の大臣と従者が強い獣に変化し危機を脱するも、もとに戻れなくなったというカンボジアに伝わる虎の起源の伝説から生まれた。
 
 本展で展示される《大舞虎》と《始まりの獣王》はともに460×480センチメートルという大作。魔除けとなる八方睨みで描かれた今作について金子は、現代に通じる辟邪絵のひとつのかたちとして、改めて虎の図像の持つ「威」を借りたいとしている。