EXHIBITIONS

新里明士「均衡と欠片」

2021.02.27 - 03.27

新里明士「均衡と欠片」より

新里明士「均衡と欠片」より

 現代の陶芸を担うアーティストのひとり、新里明士の個展「均衡と欠片」がYutaka Kikutake Galleryで開催中。3月27日まで。

 新里は1977年千葉県生まれ。早稲田大学第一文学部哲学科中退後、2001年多治見市陶磁器意匠研究所修了。2000年代初頭より国内外を問わず様々な展覧会で作品を発表し、主な受賞歴に、「ファエンツァ国際陶芸展」新人賞(2005)、「パラミタ陶芸大賞展」大賞(2008)、「菊池ビエンナーレ」奨励賞(2009)、「MOA岡田茂吉賞」新人賞(2014)などがある。

 新里は長年にわたり様々な形態を取って、「光器(こうき)」シリーズの発表を続けてきた。「光器」は透過性の高い白磁に穴をあけ、穴に透明の釉薬を埋めて焼成した作品で、それ自体が光を帯びたかのような印象を持つ。光に透け文様が浮かび上がる様を蛍に例えた技法「蛍手(ほたるで)」との類似性を見ることもできる上、作家が制作を続けるなかで到達した手法による代表作だ。

 器や酒器として造形され、評価を高めてきた「光器」の制作には、極めて精度の高い技術が必要であり、その完成の手前で、アーティストにはコントロールできない焼成という過程を必ず踏む。焼成の過程で生じたヒビや割れ、小さなキズであっても許容されることはなく、発表される作品の背景には、膨大な数の「失敗作」が存在する。新型コロナウイルスによるパンデミックの状況下で、これまで以上に制作工房に滞在する時間が長くなった新里は、そうした「失敗作」が帯びる力や、破綻のなかに潜む美しさに視線がいくようになったと語る。

 本展では、「キズ」を起点に、新里が新たな指針のもとで制作した作品を展示。また、焼きもののかたちは継承しつつも、それらを反転させ吊るすことで完成する最新の試みも発表する。