小西紀行「内なる基準」

　家族や知人のスナップ写真をもとに絵画を描いてきたアーティスト・小西紀行の個展がANOMALYで開催。本展では、新作ペインティング約20点と紙作品約20点を発表する。

　小西は1980年広島県生まれ。心理学者だった祖父との対話を通じて、幼少期から人間の判断基準や行動について考えをめぐらせていた小西は、人間という種をどこか客観的にとらえる視点をはやくから獲得し、「描く」という行為を通じて思考を深めてきた。制作においては、自身の家族や身近な知人たちの集合写真やスナップなどプライベートな記録写真を参照しながら、大胆で伸びやかなストロークで、細部を大胆に削ぎ落とす特徴的な表現方法で「人（ヒト）」を描き続けている。

　小西が筆、タオル、手指などを用いてキャンバスに描く人体は記号的かつ多角的な面立ちが特徴。絵具を擦りつけ、拭い取るといった身体的な痕跡を伴って描かれる大きくうねるようなストロークにより、空間と身体のバランスは歪められ、絡み合い、そのかたちから作家の入念な思考の跡を見て取ることができる。

　いっぽうで、滑らかなコート紙に油彩で描く紙作品や木炭による素描については、「絵画的なるもの」との格闘がない分、虚構性を孕んだナラティヴを空間のなかに自由に呼び込むことができるため、抽象度の高いキャンバス作品と対峙する際の導入となり、観客の想像力の幅を押し広げる補完的な役割を果たしている。

　自身の絵画は「現実と寓話の間（あわい）を描いている」と言う小西。新型コロナウイルスが世界と身体の関係にいかに影響を及ぼしているかということに極めて意識的かつ敏感に反応し、過剰なイメージが氾濫する情報過多なソーシャルメディアから解放されたキャンバスという空間に、脆さや定まらなさの感覚とともに生きざるを得なくなった変容する人間の意識や身体を如実に描き出すことで、「いま起きていること」を抽象化し、私たちに未来への思考を促す。