EXHIBITIONS

ネルソン・ホー「鏡中花、水中月 - A Mere Reflection of Flower and Moon」

2025.12.06 - 12.27
 東京・新宿の√K Contemporaryで、マレーシア出身のアーティスト、ネルソン・ホーによる個展「鏡中花、水中月 – A Mere Reflection of Flower and Moon」が開催される。会期は12月6日〜27日。

 ホーは多摩美術大学で日本画を学び、岩絵具による絵画をはじめ、陶芸、写真、インスタレーションなど多様な素材を横断しながら、LGBTQの経験、宗教との葛藤、メンタルヘルスといった現代的テーマに取り組んできた。作家自身が「イスラム宗教色の強いマレーシアに育ったゲイの私にとって、美は宗教に代わるものでした」と語るように、本展は濃密な宗教文化のなかで育ったクィア当事者にとって、“美”がいかに精神的支えとなり得るのかを探る試みでもある。

 本展では、新作ペインティングや立体作品、インスタレーションに加え、イサム・ノグチ、水之江忠臣、柳宗理など日本を代表するデザイナーの家具を展示空間に取り入れる。装飾を排し、機能美を追求した家具とホーの作品を併置することで、会場全体を「クィアの聖域」として再構成し、鑑賞者が座る・立ち止まるといった身体的行為を通して空間との新たな関係性を生み出す構成が試みられている。

 哲学者ホイットニー・デイヴィスの著作『Queer Beauty』から着想を得ており、クィアの美意識を「抑圧から脱却し、世界を再構築するための方法」ととらえるホー。美が贅沢品ではなく「精神的サバイバルの必需品」として機能し得る点を重視し、個人的記憶や儀式性を織り交ぜながら、空間全体をひとつの体験として提示するという。

 会期中は、内海潤也(公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館学芸員)によるギャラリートークや、Andromeda、Nixie Humidityによるドラァグクイーン・パフォーマンスも予定され、作品理解を深める関連プログラムとして構成されている。

 繊細な素材へのまなざしと、東アジアの絵画・工芸技法を取り込みながら展開されるホーの作品は、ジェンダーやセクシュアリティをめぐる個人的な経験と、より普遍的な「生の不安と希望」とを静かに結びつける。本展では、その新たな展開を俯瞰する機会となる。