EXHIBITIONS

第14回公募セレクション作品

鹿野貴司「この雨が地維より湧くとき」

ソニーイメージングギャラリー
2025.01.10 - 01.23

©Shikano Takashi

 ソニーイメージングギャラリーで、鹿野貴司による個展「この雨が地維より湧くとき」が開催されている。

 以下、展覧会ステートメントとなる。

「南アルプスに抱かれ、広い町域の96パーセントを森林に覆われた山梨県早川町は、日本でもっとも人口の少ない町でもある(2024年10月1日時点で876人)。僕は縁あって10年以上この町に通い、これまでおよそ850人の町民を撮影している。そこで強く感じるのは、老若男女問わず、早川町の人々はみな肌のつやがよいことだ。とくにおじいさんおばあさんは実年齢よりずっと若く見える。その理由だが、僕は水にあると思う。

 早川町にはおもな集落ごとに水源があり、その数は22ヶ所。住民たちが自らの手で維持管理している。蛇口から出てくるのは、南アルプスの"ほぼ"天然水だ。湧水もあちこちの山裾にあり、遠くから汲みにくる人の姿も見かける。それらの水はおよそ20年前、急峻な山々に降った雨。木から土、そして岩をくぐり抜けた清冽な水が、人々の身体へと沁み入っていく。

 町内から甲府盆地の高校へ通っていた人が、学校の水道水が口にあわず、自宅から水を持参していたという話を聞いたことがある。甲府盆地は全国屈指の晴天率を誇るが、山ひとつ越えた早川町の年間降水量はその倍近くあり、豪雨や台風による災害も多い。いっぽうでそれは恵みの雨として、動植物たちを育む。獣や魚を獲り、畑を耕し、余れば近所へお裾分け。コンビニもスーパーもないこの町では、自給自足に近い暮らしもとりたてて珍しくはない。それとは対照的にリニア中央新幹線の工事も進むが、時速500キロメートルでリニアが駆け抜けるようになっても、それは変わらないように思う。

 山とともに生きることは、雨とともに生きること。いまも雨乞いの風習が残る集落では、日照りが続くと太鼓や鍋を叩き、空へと祈りを捧ぐ。そして降る雨は森へと消え、ひとすじの地維となってふたたび湧くときを待つ」(展覧会ウェブサイトより)。