EXHIBITIONS

キム・ハク「⽣きるIV」

キム・ハク 本と難⺠キャンプ(楠⽊⽴成[ロス・リアセイ]/1960年プノンペン⽣まれ、神奈川県在住) 「⽣きる」プロジェクトより

キム・ハク 300本の昔の歌のカセットテープ(ソック・ポーン/1965バッタンバン⽣まれ、神奈川県在住) 「⽣きる」プロジェクトより

キム・ハク 14K ローズゴールドのベルト、サンポット・ホール、⾦のダングル・ブレスレット(諏訪井セタリン[ペン・セタリン]/1954年プノンペン⽣まれ、東京都在住) 「⽣きる」プロジェクトより

キム・ハク 学習帳と刺繍レースのブラウス(サム・ソン/1956 年カンポット⽣まれ、神奈川県在住) 「⽣きる」プロジェクトより

キム・ハク 思い出の本(楠⽊⽴成[ロス・リアセイ]/1960年プノンペン⽣まれ、神奈川県在住) 「⽣きる」プロジェクトより

キム・ハク 幼少時の⽕傷の痕とトウガラシ(萩原カンナ[チアンセン・テアッケナー]/1970年プノンペン⽣まれ、神奈川県在住) 「⽣きる」プロジェクトより

 カンボジア出身のアーティスト、キム・ハクによる写真展「⽣きるIV」がスパイラルガーデン(東京)および、⾼架下スタジオSite-Aギャラリー(横浜)の2会場で開催される。本展では、ハクが2014年より取り組む、1970年代の悲惨なカンボジア内戦を逃れた⼈々の所持品を撮影した写真と⽂章からなるプロジェクト「生きる」より、第4章となる「⽣きるIV」を⽇本で初めて発表する。

 クメール・ルージュ政権崩壊の2年後にあたる1981年に⽣まれ、両親から当時の記憶を聞いて育ったハク。70年代のカンボジアでは、クメール・ルージュ政権下の圧政と虐殺、戦争を逃れて⼤勢のカンボジア⼈が国外への脱出を余儀なくされた。脱出した人々は国外へ逃げる際、わずかな荷物しか持ち出せず、もっとも貴重なものや実⽤的なものだけを⼿に、故郷を去った。

 ハクは自身の親世代に起きた史実と個⼈の記憶への関⼼をもとに、クメール・ルージュ時代を⽣き延びた⼈たちを訪ね、それぞれの持ち物とその物語を記録するプロジェクト「⽣きる」を2014年から開始。両親へのインタビューから始まった「⽣きる」は、その後、ブリスベン(オーストラリア、2015)の第2章、オークランド(ニュージーランド、2018)の第3章へと展開され、個⼈が抱く過去の記憶について世代を超えて語り合う、対話のきっかけを⽣み出してきた。

 そして2020年、ハクは国際交流基⾦アジアセンターのフェローシップを受けて来⽇し、神奈川県を中⼼にカンボジアにルーツを持つ⼈々と出会い、作品を制作。今回発表される「⽣きるIV」は「⽣きる」プロジェクトの第4章であり、70年代のカンボジア国内の混乱によって国に戻れなくなった留学⽣や、80年代に⽇本へ渡った難⺠を含む12組のカンボジアの家族の物語を中⼼に構成される。

 写真展は、東京会場と横浜会場とで⼀部内容を変えて展⽰を行う。東京会場のスパイラルガーデン(8月19日~28日)では、「⽣きるIV」の最新作と過去のプロジェクトから印象的な作品を選んだ計約40点を紹介。その他、クメール⽂化を象徴する銀器や仮⾯、アンティークのテキスタイル、そしてカンボジアから⽇本へやってきて神奈川県に暮らす家族のドキュメント映像(撮影編集:友政⿇理⼦)をともに展⽰する。続いて横浜会場の高架下スタジオSite-Aギャラリー(9月9日~25日)では、東京会場で展示される作品の大部分が展示されるほか、展覧会の期間中にパブリックプログラムを複数回予定している。

 展覧会主催は、ニュージーランドに拠点を持つRei Foundation Limited。本展を通して、⽇本におけるカンボジア・ルーツの⼈々が、世代を超えて史実に向き合う機会となり、また、同じ時代を⽣きる多様な⽂化的背景を持つ⼈々が、物理的精神的な境界を超えて互いを理解し受容する機会になればとしている。