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ルネ・マグリット

René Magritte

 ルネ・マグリットはシュルレアリスムを代表する画家のひとり。1898年ベルギー・レシーヌ生まれ。初期の作品では印象派の画家たちの作品に倣う。1916年にブリュッセル王立美術アカデミーに入学。詩人のピエール・ブルジョワに紹介された画集で未来派・キュビスムを目にし、画風を変化させる。また音楽家のE.L.Tメンスを介してダダを知る。フランスからシュルレアリスムが伝播し、ブルトンを筆頭とする前衛芸術運動に参加。23年にジョルジョ・デ・キリコの作品《愛の歌》(1915)に出会い、またマックス・エルンストの作品から、無関係なものを同じ画面に配置することによって、驚きや神秘的な効果をもたらす「デペイズマン」とコラージュの手法を学ぶ。2人に多大な影響を受け、26年に初めてシュルレアリスムの作品《迷える騎手》を手がける。翌年、ブリュッセルのル・サントール画廊で初個展を開催。しかし思うような反応を得られずパリに拠点を移す。

 29年『シュルレアリスム革命』に「言葉とイメージ」を寄稿。木の葉の絵の下に「大砲」を書いたスケッチなどを添えて18の項目を立て、ものと名前は固定されたものではなく何通りにも解釈でき、また新しいイメージを表現しうることを説く。「パイプ」の絵の下に「これはパイプではない」という言葉を書いた《イメージの裏切り》(1928〜29)はこの説を代表する作品。また哲学者のミシェル・フーコーが著書『これはパイプではない』で「言葉とイメージ」について論じている。パリで3年ほど活動した後、ブルトンとの対立も起因してブリュッセルに帰郷。生計を立てるため広告デザインの仕事を引き受ける傍ら、日常に潜む謎や神秘に関心を寄せ、これを問題として絵画で解答を見出す研究に没頭。「扉」の問題に、出入口という点で共通する「穴」を解答とした《予期せぬ答え》(1933)の発表以降、類似性のあるものを引き合わせて予期しないイメージを生み出す「問題と解答」の手法を基本に制作を行う。

 39年、第二次世界大戦が勃発。戦争の不安を反映した作品から、オーギュスト・ルノワールに倣った明るい色彩の作品や「ヴァッシュ(雌牛)」と自ら名づけた、フィーヴィズム風の作品に取り組むも不評に終わる。終戦後、30年代のときに実践していたデペイズマンやコラージュの技法、また布で顔を覆われた匿名の人物の肖像画などに原点回帰。また、自身の自画像でもある銀行員をモチーフに匿名性を強調した《ゴルコンダ》(1953)や、夜と昼が同居する《光の帝国》(1954)などを描く。

 晩年にはブリュッセルのギャルリー・サンテュベールの劇場(1951)、クノック・ヘイストのカジノ(1953)、シャルルロワのパレ・デ・ボザール(1957)のための巨大壁画を制作。立体作品の例は少なく、絵画に集中して日常に事物に隠されている謎や神秘を表現することを試みた。67年没。2009年、ベルギーにマグリット美術館が開館。日本では宇都宮美術館が後年の代表的な作品《大家族》(1963)や《夢》(1945)を収蔵。このほか、横浜美術館、DIC川村記念美術館、ポーラ美術館などもコレクションを所蔵している。