ひとつだけの基準で「ベスト」の展覧会を選ぶことは難しいため、ここでは今年開催された展覧会のなかから印象に残った3つを挙げたい。ただし、ウェブ版美術手帖にレビューを寄せた「鈴木涼子 Body Letter」展(CAI03)、「ホーム・スイート・ホーム」展(国立国際美術館)、「アナイス・カレニン Things named [things]」展(The 5th Floor)は含めていない。いずれも異なる意味で印象的な展覧会であったので、ぜひ、ぼくが書いた文章を読んでほしい。
「趙根在写真展 地底の闇、地上の光 ― 炭鉱、朝鮮人、ハンセン病 ―」(原爆の図 丸木美術館/2月4日〜4月9日)
1960年代から80年代にかけて各地に点在する国内のハンセン病療養所を訪ね歩き、政府の隔離政策のために収容された入所者の姿を撮影し続けた写真家・趙根在の作品展。若くして炭鉱夫として働き始めた在日朝鮮人の趙は、たまたま療養所を訪れたことを契機にハンセン病に関心を寄せるようになった。とくに在日朝鮮人の入所者に焦点を当てた彼の写真は、階級、病、民族などの要素が複合的に絡み合う差別におけるインターセクショナリティ(交差性)を照らし出す。様々な差異が憎悪や偏見となって分断を引き起こしている現代の世界に対して、この展覧会が問いかけるものは大きい。