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「生活と芸術の二本の糸はいつもしっかりと絡んでいるんです」。ロングインタビュー:塩見允枝子

2021年10月号の特集「アートの価値の解剖学」にあわせて、プレミアム記事だけで読める、多様な価値軸で生きる作家たちのロングインタビューを特別公開。本記事では、同特集の「多様な価値軸で生きる作家の『美術』の担い方」(監修=原田裕規)で取材された塩見允枝子のインタビューを掲載。音楽、美術、パフォーマンスといったジャンルを超えて表現に試みてきた作家に話を聞いた。

聞き手・文=橋本梓(国立国際美術館主任研究員)

2021年2~3月にSALON(兵庫)で開催された「塩見允枝子|Per formances & Visual Works 2021 in Kobe」の様子 写真提供=野営地

 塩見允枝子は、1938年岡山県生まれ。フルクサスの活動に深く関わり、多彩な表現を通じて国際的に活躍してきた。

 本記事では、2021年10月号の特集「アートの価値の解剖学」の「多様な価値軸で生きる作家の『美術』の担い方」(監修=原田裕規)で行われた取材をもとに再構成された、塩見のロングインタビューを掲載。しなやかな表現はどのように生まれてくるのか、塩見の作品づくりを支える考え方や基準が語られる。

キャリアを支えるフレキシビリティ

 音楽、パフォーマンス、ヴィジュアル・アートの領域を行き来しながら、60年以上に渡って活動を続けてきた塩見允枝子。作曲家を志して東京藝術大学の楽理科に進み、キャリアをスタートさせた。「現代には現代の書くべき曲があると考え、作曲はもちろん、現代音楽理論の研究に積極的に取り組みました。柴田南雄先生などの良き師から学ばせてもらったのは、理論的に考える態度と、作品にはあらゆる部分に『魅力(Reiz)』がなければならない、ということです」。この学びは音楽のみならず、塩見がものをつくり、表現する姿勢の重要な礎となり、いまにつながっている。

 大学時代に得たもうひとつの財産は、仲間たちとの出会いであった。特に「グループ・音楽」としてともに活動した小杉武久、水野修孝、刀根康尚らとは、新しい音楽の可能性に果敢に取り組み、テープ音楽や即興演奏などの新たな扉を開いた。

 興味深いのは、そうして仲間たちと先鋭的な音の洪水に身を浸しながらも、自分自身の表現の核へと静かに降りていく道のりが塩見のなかですでに始まっていたことである。それは、大学の楽理科研究室での練習でのことだった。「あるとき、ほかのメンバーたちのアグレッシブな音にうんざりして、思わずテーブルの上に置いてあった鍵束を掴んで、天井に向かって何度も投げ上げて、オスティナート、つまりカチャッという小さな金属音が同じように持続するという演奏を始めてしまったんです。そのときふと、これってもう音楽の演奏とは言えないなあ、でもこうしたアクションもなんだか面白いから、アクションの芸術があってもいいのではないかしら?と思う、小さな予感のような瞬間がありました」。

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