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「作品をオープンにしておけば、多くの解釈が可能で、異なる人々に違った形で問いかけます」。インタビュー:モナ・ハトゥム

2021年8月号の特集「女性たちの美術史」にあわせて、パレスチナ人アーティストのモナ・ハトゥムのインタビューを掲載。ジェンダーや政治といった普遍的なテーマを扱うハトゥムの制作をたどる。

聞き手=岡部あおみ

広島市現代美術館の個展会場にて撮影=草苅健写真提供=広島市現代美術館

 パレスチナ人アーティストのモナ・ハトゥムは1952年生まれ。パフォーマンス、映像、インスタレーションなどの幅広い手法で、政治的抑圧や社会的矛盾を表現し、国際的な評価を受けている。

 本記事では、2017年に広島市現代美術館で開催された日本初個展に際して行われたインタビューを公開。ヒロシマ賞受賞にともない広島で制作された作品や展示風景とともに、コンセプトや制作について話を聞いた。

広島市現代美術館「モナ・ハトゥム展」より 《底流(赤)》( 2008) (部分)の展示風景。布で覆われた電気ケーブル、電球、調光ユニットで構成された作品は、生き物の呼吸のように電気が明滅し、生命力のある物体のようにも見える
写真提供=広島市現代美術館 撮影=草苅健 © Mona Hatoum

観客がそれぞれの人生経験をもとに作品を解釈することに、興味をそそられます。モナ・ハトゥムインタビュー

 現在ロンドンを拠点に活動を続けるパレスチナ人アーティストのモナ・ハトゥム。多文化で育ったグローバルな視点が彼女の作品の背景にはある。今回ヒロシマ賞の受賞及び、広島での大規模個展に合わせて来日した作家に、その創作活動について聞いた。

日本そしてヒロシマで考えたこと

──第10回ヒロシマ賞(*1)受賞おめでとうございます。審査員のひとりとしても広島市現代美術館の受賞記念「モナ・ハトゥム」展を心待ちにしていました。初期から現在までの活動を包括し、さらに広島をテーマにした新作を5点出品する大規模ですばらしい展覧会になり、とてもうれしいです。日本でのこの初個展に関して、お話をうかがいたいと思いますが、まず最初に、手仕事を大事にされるモナ・ハトゥムさんの様々な作品の繊細さには、日本の伝統文化に近い感性も感じられるので、日本との関わりについて少しお話しいただければと思います。

ハトゥム これまでつねに異文化の多様な工芸や手づくりの手法に魅せられ、それらが着想源になってきました。最初の日本訪問は1994年に福岡の「ミュージアム・シティ・天神94」に参加したときで、片側で円型の線を描き、同時にもう半分がそれを消すアームのある巨大な平たい円筒に砂を敷いた機械を展示しました。日本と出合い、高度に洗練された芸術と驚くべき工芸が非常に印象深かったのですが、97年に世田谷美術館で「デ・ジェンダリズム 回帰する身体」展(*2)に招待されるまで、日本で制作する機会はなく、その展示の準備でときどき京都に滞在して屏風をもとにした作品と《アイキャッチャー》(1997)という作品をつくりました。後者は渋谷で見つけた大きな釣り専門店で見た釣り糸やステンレスでできた小さな円筒の魚の罠に発想源があります。その罠を、何かに魅了され仰天して飛び出す目玉を捕えるメガネに変え、また古くからの竹細工師に頼んで、竹でこのメガネの“伝統的な”バージョンもつくってもらい、本展でも展示しています。学生だった70年代から、髪の毛、爪、剥がれた皮膚など自分の体の残滓を紙パルプに織り込む、和紙にやや近い紙を自分でつくっていました。90年代半ば頃から日本製のワックスペーパーに、台所用品を押し当てて“フロッタージュ”を行い、表面に穴を開けたりするデリケートな「白の上の白」的印象の作品も制作しました。広島には本シリーズから5点出品しています。

アイキャッチャー 1997 竹、釣仕掛け用ワイヤー、ステンレススチール
© Mona Hatoum

──広島には2015年11月に下見に来て、広島平和記念資料館などを訪問されたそうですが、今回の新作について話していただけますか?

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