ウォーホル研究者・宮下規久朗さんに聞く 作品の革新性と見どころ
平面的でポップな色づかいのアンディ・ウォーホルの作品。ウォーホルが「巨匠」と言われる所以とは、その存在がアート界にもたらした功績とは、また作品の特色とは何か。ウォーホルを研究する美術史家が解説!
Q 箱が大量に並ぶことでなぜアートと呼べるのですか?
A この箱、商品のデザインをベニヤ板にそっくり再現しています。スーパーマーケットの倉庫と勘違いして帰ってしまう人もいたそうです。
1964年4月、アンディ・ウォーホルは商品の荷造り用のダンボール箱とまったく同じサイズと柄に模した立体作品を、ニューヨークのステーブル・ギャラリーで発表。それはブリロ洗剤、ハインツのトマトケチャップ、デル・モンテのピーチ缶、キャンベルのトマトジュース、ケロッグのコーンフレーク、モッツのアップルジュースの箱であり、ベニヤ板にシルクスクリーンで忠実にデザインを転写したものだった。この「いろいろな箱」は、ウォーホルにとって初めての立体作品であり、ウォーホルの事実上のアーティストデビュー作《キャンベル・スープ缶》の彫刻版と言える。彫刻といってもシルクスクリーンを用いた絵画平面を6面組み合わせたものと見ることもでき、絵画と彫刻との区別を無効にするような作品だった。
箱は会場内にびっしりと天井まで積み重ねて展示されたため、ギャラリーを訪れた客が商品倉庫と勘違いして帰ろうとしたこともあったという。特権的なファイン・アートの空間に、日常的な商業システムを強引に持ち込んだものと言える。これらは単品としても、集積してもひとつの美術作品として成り立ち、展示の仕方、積み上げ方などもまったく他人に任されていた。雑然と積み上げれば商品倉庫のようになるし、整然と等間隔に並べれば、あたかもミニマル・アートのインスタレーションのように見える。
論文「ブリロの箱を超えて」の著者、美術評論家のアーサー・ダントーは、こうした作品を芸術とみなして鑑賞するためには、「アートワールド」が成立していることが前提になっていることを指摘した。それは作品が成立する文脈や概念が共有されていることが要求される、現代美術の本格的な始まりを告げるものであった。