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芸術形式としてのゲームの現在地とは? 葛西祝評「GEIDAI GAMES 02」展

企業や海外の大学とも協働し「表現としてのゲーム」が研究・制作される東京藝術大学大学院映像研究科ゲームコースによる、成果展示が開催された。VRを用いた実験的な作品などが発表された本展を、ヴィデオゲームについて執筆や批評を手掛ける葛西祝がレビューする。

文=葛西祝

ゆはらかずき Baby in the Cradle 2020

 ヴィデオゲームを芸術形式として追求する試み

「GEIDAI GAMES 02」展(以下、GG02)が3月19日~20日にかけて開催された。これは東京藝術大学大学院映像研究科ゲームコース(以下、藝大ゲームコース)の2020年度における成果を発表する展示である。

 新型コロナウイルス流行に対応するかたちで、展示はオンライン上で行われた。出展作品はブラウザでプレイできる(現在もプレイ可)。VR作品のみ同大学キャンパス内にて実地で展示されていた。藝大ゲームコースは、2019年にアニメーション専攻内に開設された新興のコースである。同大がゲームを扱うのは、前身として2017年に行われた「ゲーム学科(仮)展」から数えて4年目となる。

 本コースは、商業文化としてスタートしたゲームをひとつの芸術形式として再解釈し、表現の可能性を追求することを目的としている。ゲーム機やスマートフォン用のゲームに見られる、華やかなキャラクターやストーリー、明確なルールでゲームプレイの勝敗や合否を決める要素を除外し、表現手段としてとらえていることが特徴である。

松井靖果、李沐陽、クリスティ・イェ Road Less Traveled 2020

 また本展では、制作や研究にあたり、先行事例として南カリフォルニア大学(以下、USC)のゲーム専攻とも協力している。USCはゲームデザインをアカデミックに研究~実践していることで、世界的に高く評価されている大学だ。卒業生の作品からは『風ノ旅ビト』(2012)や『Outer Wilds』(2019)など、ヴィデオゲームの芸術形式を再解釈し、コマーシャルでも大きな成果を上げたタイトルが出てきている。

 もうひとつ、コマーシャル側からはスクウェア・エニックスが参加している。修士・研究生の制作に同社からメンターが付き、主に技術的な側面でのサポートを行っている。同社が参加する目的は 「産学共同」だが、東京藝大と関わることで、ビジネスベースでは発想しえないゲームデザインを見出そうとしている部分もある。このように、現在のアカデミズムとコマーシャルのふたつのトップに監修されるかたちで、藝大ゲームコースは今日までの成果を積み重ねてきた。

 当初は映像研究科がベースであるゆえか、ゲームというよりも、事実上インタラクティブ・アニメーションであったり、VRアニメーションとして仕上げる以上の追求が見られない作品が多かった。しかし制作を積み重ねるにつれ、徐々にルールやインタラクションの面へアプローチした作品も見られ、ゲームならではの表現形式を掘り下げるようになってきている。

ゆはらかずき『Baby in the Cradle』。ハンモックに寝転んで、目を閉じて操作することで夢を見るような体験をつくる 撮影=筆者

 今回のGG02でまず印象深い作品は、ゆはらかずき『Baby in the Cradle』である。本作は大胆にハンモックに寝転びながら、タイトル通り赤ちゃんが見る夢のような空間を体験する作品だ。VR作品だが、なんとプレイヤーが 「目を閉じる」という動作で先に進めるようにしていることが特徴である。視覚メディアに対して、あえて目をつぶるインタラクションを主軸にすることに面白さがある。

 呉ゲツキ『Small Life』は、中国・深セン市をモチーフとした、現実世界に目を向けたアプローチが特徴だ。都市風景をマウスでクリックし、各マップの謎を解いていくゲームデザインとなっており、アニメーションを生かした探索ゲームへと仕上げている。

 現在のヴィデオゲームにおける物語表現を研究した形跡があるのが、許哲欣の『YOU』だ。反抗期の息子を亡くした父親となり、息子との記憶をたどりながら、彼の死を受け入れていく物語を、3Ⅾ空間やパズルのシーケンスなど多様な表現で描いて見せる。許はすでにゲームデザイナーとしても活動していることもあり、アプローチは映像研究科的というよりも『That Dragon, Cancer』(2016)といったゲームタイトルの手法に近い。

許哲欣 YOU 2020

 今回は修了生の幾人かが、USCと現地で制作している背景もあり、インタラクティブ面をぐっと進めた作品がいくつか見られた。ヴィデオゲームの特性として、まずプレイヤーが作品を操作することや、ふれることをそのものから始まる要素を掘り下げていたといえるだろう。既存のヴィデオゲームジャンルの構造を扱う作品が見られたのも大きい。 

 同大学のゲーム関連の試みでは、すでに独自の活動をスタートしている作家が出てきている。2017年の「ゲーム学科(仮)展」から作品を出展している薄羽涼彌は、アニメーション作家の和田淳の作品をゲームに落とし込む『マイ エクササイズ』に関わる。同じく出展していた小光は制作した『here AND there』をiOSアプリとして公開し、様々なゲームイベントに出展するなど、広く活動を始めている。今回のGG02でも、薄羽と小光はチーム「Coffee Dogs」として出展している。その作品『You understand kawaii』では、プレイヤーは主観視点で移動し、直接マイクに話しかけることで、散歩する犬に「かわいい」と声をかけるゲームプレイへ仕上げている。

VR作品の展示風景より 撮影=筆者

 本ゲームコースでは、ヴィデオゲームにおける芸術形式とは何か? という問いが掘り下げられることはもちろんだが、近い未来にはコース出身者によるアカデミックとコマーシャルを行き来する緊張感のあるタイトルが生まれる可能性があるという意味でも、注目すべきなのである。

編集部

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