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REVIEW - 2019.9.17

反復する空間とその奥行き、あるいは思索の世界。飯岡陸評 木村友紀「Reception」展

写真や映像、立体などを用いて、空間や時間、次元をテーマにしたインスタレーション形式の作品を発表してきた木村友紀。日本では4年ぶりとなる個展「Reception」では、時間や物質、イメージについての思索を展示空間へとひろげた。本展の新作インスタレーションを、キュレーターの飯岡陸が読み解く。

文=飯岡陸

会場風景 Photo by Yasushi Ichikawa

エッシャー的眼球

タカ・イシイギャラリーの六本木スペース、備え付けの重厚な黒壇のカウンターテーブル、黒いモルタルの床、L字の空間と奥から注ぐ自然光、外の大きな鉢植え。これはその空間自体を空間の中に反復する試みである。75%、50%、25%にそれぞれ縮小したカウンターテーブルのミニチュアは、オリジナルと同じ品質で、その為に全く別の機能性が示唆されるかもしれない。あるいは縮小される度に、空間やその意味さえも濃縮された象徴的なオブジェになる、その一連の過程であるとも言える。遠近法のイリュージョンによって、部屋全体がいつもより奥深く、より一層入り難く感じられることを想定している。

 木村友紀は本展「reception」に合わせて、プレスリリースにこのようなテキストを掲載している。来客を出迎える「備え付けの重厚な黒壇のカウンターテーブル」(受付=reception)から始まり、目に見える順番に列挙された単語によって「窓から自然光が差し込む」ギャラリー空間が浮かびあがる。その文体は、別の場所から遠くにあるギャラリーの姿を思い出しながら、記憶によってその空間をデッサンしているかのようだ。

 「これはその空間自体を空間の中に反復する試みである」。それはギャラリーに置かれた5点のオブジェクトによって実現されている。L字型をしたギャラリーの中央付近には、周囲の風景を反射する鏡面の球体が配置されている。カウンターテーブルは「75%、50%、25%とそれぞれ縮小」され、3つの複製がそれぞれ空間の隅に置かれている。木製の台の上に載った3つのコニャック・グラスは縦に重なり、カウンターテーブルを含む周囲の風景や互いの反射を映している。

会場風景 Photo by Yasushi Ichikawa

 これまで木村は、写真と写真の組み合わせにより図像が示す記号を錯乱させる初期作品から、写真とオブジェクトを組み合わせることでイメージの意味を脱臼する代表的なインスタレーションまで、写真への懐疑的な探求を続けてきた。近年の作品に目を向けてみれば、木村の関心はイメージの持つ現象的・非物質的な側面を扱い、思弁的な空間を構築することへと移行しているようにみえる。

 2016年に開催された個展「Inhuman Transformation of New Year’s Decoration, Obsolete Conception or 2」(CCAワッティス現代美術研究所、サンフランシスコ)において木村は、個々の作品がジル・ドゥルーズ『ベルクソニズム』の時間や物質についての哲学的センテンスの模型としても読みとれるインスタレーションを発表している。また今年の4月に個展「Reflecting in Sizes」(Jenny’s、ロサンジェルス)で発表したインスタレーション作品《MPEG-4 H.264 Reflecting in Sizes》(2019)では、大中小3つのサイズのモニターをテーブル状に設置し、その上に映像の光を受け止める大小さまざまなグラスを陳列した。本展はこうした探求の延長線上にある。

 改めて展示室に戻ろう。文中で「反復する」とだけ示される操作はヴァリエーションを伴っている。すでにそこにあった家具の比率を変えて再生産すること、反射によって周囲の景観をイメージとして扱うこと。それはこの種の作品に対してしばしば与えられる「ファウンドオブジェクト」や「レディメイド」という言葉ではとらえきれない。

 格調高い木製のテーブルは、幾何学的な厳密さを伴って反復する。それは、近くのものは大きく/遠くのものは小さく見えるという「遠近法のイリュージョン」のジオラマとしても存在するだろう。木村が買い集めた異なるメーカーの3つのコニャック・グラスは、(縮小とともに機能が失われていく机と対照的に)容器としての機能によって内側に重なりあう。透明な曲面はガラス越しの視覚を歪めつつ、同時に手前の風景を映しとる。

Three Cognac Glasses 2019 ガラス製品 24✕21.5✕21.5cm Photo by Yasushi Ichikawa

 鑑賞者は磨かれた金属の球体の表面に、自分自身の姿を見る。それはあたかも、空間の死角を見渡すために開かれた眼球のようである。あるいは球体を覗き込む自分自身を描いたM.C.エッシャーの絵画を想起させる。

Mirror Ball 2019 ステンレススチール 直径24cm Photo by Yasushi Ichikawa

 そのときあなたは、この展覧会が鑑賞者がいなくとも成立することに気づくかもしれない。金属の球体は眼球=レンズの代替物としてここに置かれ、そしてコニャック・グラスもまた、縮尺の変わる3つのオブジェクトに対応する、3重の眼球=レンズとしてここにある。展示室は鑑賞者ではなく、この2点を中心につくられている。それに気づいたとき、あなたは構築された奥行きに「より一層入り難く」感じ、「reception=歓迎、受け入れ」という皮肉を理解するだろう。あなたが踏み入れたのは、観測者なき思索の世界なのだ。