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ストリートとキャラクター文化から
飛び出したドローイングの新星。
北出智恵子が見た、BIEN 「WOOZY WIZARD」展

ポップな色面上で踊る、有機的なライン。SIDE COREに見出された新進アーティストがつくり出す、新しい表現とは? 作家独自のドローイング・スタイルを、金沢21世紀美術館のキュレーター北出智恵子が分析する。

文=北出智恵子

SILLY SQUARE 2018 木にカッティングシート 12.3×15.3cm

北出智恵子評 BIEN 「WOOZY WIZARD」展 解体、未像、その先の軌跡

 2017年夏に石巻で開催されたReborn-Art Festivalにて、被災した水産倉庫がスケートパークになった場所を展示会場としたSIDE CORE。その一角に、玩具を差し込んだコンクリートの瓦礫が塔のように山積みにされたオブジェと、ベニヤの画面に蛇行したラインのうねりが描かれた平面群が所狭しと並んだ展示空間があった。これがBIENの作品だと知ったのは後になってからだ。

 BIENは、高校時代に雑誌『STUDIO VOICE』や『relax』等のバックナンバーを集め、1990年代後半のカルチャーを吸収し、キャラクターを描くことから制作を始めた。そして大学ではグラフィックデザインを学びながら様々な造形手法を試し、ドローイングを主軸としてストリートでも活動してきた。本展は、石巻での展示の発展系と言える。

展示風景より 撮影=花坊

 平面作品は、撮影された写真や画像で見ると、地は平滑で、線もコンピューターツールで構成されたように見紛う。だが実際は、地はカッティングシートで、その貼り方は粗い。さらに線も粗々しく彫られたものである。キャラクターやフィギュア、文字記号的なものといった従来のモチーフに加え、本作品群では、東京に生まれ住む作家が石巻で滞在制作中に初めて見た虫食いの痕跡にインスピレーションを得て、この発見を作品に取り入れたそうだ。ルーターで彫られた線は太さがほぼ一定で、深さも均等なため、地の赤、青、黄の彩度、白と黒の市松柄の効果もあり、見る者の目を惑わし、ルーターの回転、振動の痕跡は、線の動態とその留まらなさを予見させる。

展示風景より 撮影=花坊

 平面作品にて見出されたこの「彫るライン」は、鏡面に貼られたカッティングシートの色面分割においては、BIENの手が入る、つまり、剥がすという行為と痕跡と呼応する。ここでは、既存の構造たる鏡と一時的に加えられた色面分割のカッティングシートという異なるレイヤーが馴染み始め、作家の表現がすでにそこにあったものと思わせるようなフィクショナルな空間が生まれる。

 そして、中央に置かれた立体においては、絨毯、椅子、引き出しといった室内を表象するオブジェが目立つ。椅子はすべてひっくり返され、座ることができず、最上段のそれは足が1本欠落している。絨毯における「敷く」という機能は活用されながら、椅子の「座る」という機能は削られているのだ。そうして並べ積まれた木製の物々のうえに、削り出されたスタイロフォームのオブジェが座す。この立体では、何かであろうことを想起させながら、特定されることが見事にかわされている。

展示風景より、中央は《REBUILD MONUMENT》(2018) 撮影=花坊

 これら平面、インスタレーション、立体という3要素を含む作品群が一堂に会することで、BIENの作風、特徴が浮き彫りにされていた。さらには「ドローイング」というものの根源たる「引く」「引っ掻く」という行為、そしていまや平面に集約されてしまったその様式をとらえ直す、あるいはその表現様式を拡張するキーワードが明示されていた。つまり、「彫る」ことにより「描く」こと、「積む」ことにより「摘む」こと、そして「消す」ことにより「表す」こと。BIENはこれらの手法を巧みに操りながら、新たな「フィクション」のありようを提示する。

編集部

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