絵本作家・画家のヒグチユウコの大規模個展「ヒグチユウコ展 CIRCUS FINAL END」が森アーツセンターギャラリーで開幕した。全国9会場を経て東京に帰還した本展には幕引きを思わせる副題が冠されており、ヒグチユウコの「CIRCUS」の世界観を堪能できる最後のチャンスになっている。会期は4月10日まで。
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入口の赤い幕をくぐった先は暗く、黒い壁にはヒグチユウコの描いた絵が所狭しと飾られている。着彩された作品が多く、その一点一点が明かりを灯しているようにも感じられるだろう。
最初の角を曲がった先には、「バベルの塔」のオマージュでもある作品群《BABEL》の原画が展示されている。荘厳な額に入った一枚一枚は、幻想的な風景でありながらも歴史を切り取ったかのように静かで精密だ。
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誰かの屋敷に迷い込んだような雰囲気は、猫足の椅子が展示されているせいかもしれない。隣の壁紙にもヒグチユウコワールドが広がっているので、じっくり眺めてお気に入りの部分を探してみるのも楽しい。ゲームやアニメで見覚えのある「あの生き物」も、どうぞお見逃しなく。
「イーブイ」達の横に伸びている赤い幕を抜けたなら、今度こそ賑やかなサーカスの世界。ヒグチユウコが背景を手掛けた『カカオカー・レーシング』の立体展示がこの空間の支柱になっている。そこでは、『ヒグチユウコ画集 CIRCUS』でお馴染みのイラストたちはもちろん、絵から飛び出してきたようなぬいぐるみとも随所で目が合うはずだ。
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同じ展示室の奥では、全国の巡回展のために制作された特別イラストを一望できる。会場名とあわせて鑑賞しているうちに、ほとんどは初めて見る作品でありながら、不思議と旅を振り返るような気持ちになってくる。今回の展示に寄せた《終幕》の迫力は、ぜひ近くでご覧になっていただきたい。
続く部屋では、『ふたりのねこ』『ギュスターヴくん』『ほんやのねこ』といった絵本作品の原画や書籍の装画から、見ていると思わずこちらも微笑んでしまうような、猫をはじめとする生き物の愛らしい表情を楽しむことができる。
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壁が補色の緑色に切り替わった先で目に飛び込むのは、雷神の屏風。その横には和室が設えてあり、壁には掛け軸、ショーケースにはこけし型の作品まで飾られている。雰囲気の転換に驚くかもしれないが、ヒグチユウコが描き出す生き物が、どんなシーンにも不思議と溶け込んでいくことが感じられるだろう。
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こけしの斜向かいには洋服が飾られており、ここで再び黒い空間に切り替わるのだが、今度はゴシックでファンシーな雰囲気だ。その先ではトルソーの群れが迎えてくれる。表面にお馴染みの猫が描かれているものもあるので、ぜひ細部にまで目を凝らしてほしい。
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同じ部屋の壁には、思わず二度見してしまうような、心臓や瞳などのモチーフの作品が数多く感じされている。グロテスクで不穏で、とても美しい作品からはヒグチユウコの真骨頂が感じられることだろう。
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その部屋を抜けると、これまでの巡回展では展示されてこなかった映画関係のビジュアルとGUCCIとのコラボレーションが並んでいる。まるでポップアップショップのようなGUCCIコラボ作品の展示エリアは、ハイブランドの高級感がありながら幼心を刺激する夢のような空間になっている。
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ヒグチユウコが題材にする映画は『ヘレディタリー/継承』などのホラー作品からジブリまでさまざま。ポスターだけでなく原画も展示されているが、それでも一目でヒグチユウコの作品だとわからないものもあるかもしれない。作家の知られざる一面、あるいは映画好きという個性が垣間見える展示となっている。
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続く部屋には、巨大なショーケース。そのなかに着彩イラストや4コマ漫画、ホルベインとのコラボレーショングッズなどが整然と並べられている。壁にも八角形の額に入れられた絵が飾られており、なかには12星座をモチーフにしたイラストもあるので、ご自身のものを探してみるのもひとつの楽しみになるかもしれない。
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FINAL ENDの幕引きは、映像の展示。ヒグチユウコが描いたキャラクターが現実世界に飛び出してくるアニメーションと、制作風景を収めた動画がエンドロールのように流れていく。白昼夢のようなサーカスの世界から、少しずつ現実に戻ってくるような展示構成になっている。
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さて、原画や制作過程の映像を見て「絵を描いてみたい」と思った方に朗報なのがグッズコーナーだ。展示にもあったホルベインとのコラボグッズはもちろん、ヒグチユウコ愛用のプロカラーペンやクロッキー帳まで、ヒグチユウコ展仕様のラインアップが勢揃い。もちろん画集も取り扱っている。
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2019年から全国を巡回してきた約500点に、これまで紹介しきれなかった作品も合わせた約1000点が集結する本展。空想なのに現実のような、そのリアルさゆえに歴史的でさえある作品の数々。そのどれにも、特徴的な筆致が一貫してあるものの、「かわいい」とはしゃいで誰かと共有したくなるような作品もあれば、静かな気持ちで対峙したくなる一枚もあるだろう。
誰かと来てもひとりでも楽しめ、ヒグチユウコの世界観に惚れこんでいる人もまだ知らない方もきっと虜になる。そんなサーカスのひとときに、足を運んでみてはいかがだろうか。
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