今年の大河ドラマでも注目を集める徳川家康が1585年に築城した駿府城。その遺構として知られる静岡市の名所・駿府城公園からほど近い場所で、静岡市歴史博物館がグランドオープンを迎えた。
同館は昨年7月23日に1階無料エリアの公開を開始。これまでにすでに来館者数5万人を突破しており、注目度の高さが伺える。
コンセプトに掲げるのは「静岡の過去を学び、今を知る。そして、未来を考える。」。静岡市ならではの歴史的・文化的資源の価値と魅力を発信するとともに、都市イメージ「大御所家康と駿府」の確立を目指すという。
まず特筆すべきは建築設計だ。手がけたのは、数多くの美術館建築をこれまで生み出してきた世界的に知られる建築家ユニット・SANAA。建築は城下町や駿府城大手御門から二ノ丸堀に続く雁行動線を建物内部まで立体的に延長。街並みが建物へと地続きになるように設計されている。
1階は木製建具・ひさしや下屋などによって周囲の歴史的景観との調和が図られている。いっぽうで上部のアルミエキスパンドメタルの外装は軽やかな印象を与えつつ、効果的なコントラストが生み出された。
内部は4階構造。延床面積は4885.86平米で、展示室面積は1001.47平米。エントランスから入り、まず目に飛び込んでくるのがこの博物館のハイライト、戦国時代末期の道と石垣の遺構展示だ。
これは、博物館建築の際に行われた発掘調査で発見されたもので、博物館内で遺構を保存しながら露出展示するのは極めて珍しい。これを展示するために、建築計画も当初のものから変更されたという。
遺構を覆う、柱のないダイナミックな屋根が印象的なこの空間。遺構の高さまで階段を降り、間近に鑑賞することができるのも大きなポイントと言える。
遺構をぐるりと囲む長いスロープを伝い、2階へと上がる。2階と3階は展示室となっている。
2階では25年を過ごした徳川家康について、様々な切り口からその一生が紹介されるとともに、長らく静岡を治めていた今川氏についても言及されている。3階は静岡の近世の繁栄と現代につながる発展にフォーカスした展示だ。
グランドオープンを飾る展覧会も紹介しておきたい。企画展「徳川家康と駿府」(1月13日〜2月26日)だ。本展は、家康が多くの寺社、あるいは郊外の集落にまで遺した様々な記憶・軌跡を、静岡一円に現存する家康ゆかりの資料から読み解くものとなっている。
現時点での同館のコレクションは約4万点。そのうち約130点が展示として並ぶ。常設展示室と企画展示室が明確に分かれているわけではなく、今後はフレキシブルに展示を構成するという。
知事と市長のあいだで巻き起こった建設に対する意見対立や事業の一時凍結などを乗り越えてのグランドオープンとなった静岡市歴史博物館。中村羊一郎館長は、「歴史博物館建設の声が上がったのは30年ほど前のこと。強い声に押され、ようやく開館できた」としつつ、「静岡市民が待望してきたものであり、市民の皆様に徹底的に活用していただきたい。たんにモノを並べるだけでなく、生きたものとして将来にわたって育てていきたい」と意気込む。家康のお膝元であった静岡に誕生した新博物館。将来的には「家康といえば静岡市歴史博物館」という存在になるかもしれない。