北斎生涯最大の作品を実物大で再現。「Digital×北斎」特別展「大鳳凰図転生物語」がスタート

長野県・小布施町の岩松院本堂大間にある葛飾北斎作の「鳳凰図」をデジタルデータによって実物大で再現する「Digital×北斎」特別展「大鳳凰図転生物語」が、NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]で始まった。

展示風景より、岩松院本堂天井絵「鳳凰図」(マスターレプリカ)

 葛飾北斎の生涯最大規模の作品であり、長野県・小布施町にある岩松院本堂天井絵「鳳凰図」(通称、「八方睨み鳳凰図」)。同作を300億画素のデジタルデータによって実物大で再現する「『Digital×北斎』特別展『大鳳凰図転生物語』」が、東京・初台のNTTインターコミュニケーション・センター[ICC]で開幕した。

 これまで「Digital×北斎【序章】」展と「Digital×北斎【破章】」展を開催してきたNTT東日本。NTT ArtTechnologyと株式会社アルステクネと連携し、2019年より岩松院本堂の天井に描かれた間口6.3メートル、奥行5.5メートルの「鳳凰図」に関する調査を開始した。

展示風景より

 本展では、アルステクネの特許技術「高品位三次元質感画像処理技術DTIP」を用いて再現された実物大の「鳳凰図」や、岩松院の本堂を再現した空間のなかで同作を体感できる3D映像のほか、調査・デジタル化の過程で得られた様々な発見や考察を紹介する動画やパネルなどが展示されている。

 会場は、「イントロダクション」と「おわりに」に加え、第1章「北斎 新たな旅」、第2章「四つの鳳凰図の謎」、第3章「巨大天井絵デジタル化プロジェクト」、第4章「天井絵転生物語」の計6章で構成。本レポートでは、本展のクライマックスと言える第3章と第4章を中心に紹介したい。

展示風景より

 まず、アルステクネのDTIP(Dynamic Texture Image Procession)という技術について触れておきたい。数十億〜数百億画素の画質で和紙の1本1本、版画特有の凹凸までデータ化するうえ、平面へのプリントにより原作品の持つ豊かな質感を再現するというもの。この技術を用いて制作された、「マスターレプリカ」と呼ばれる複製作品は、フランス国立オルセー美術館や山梨県立美術館、大阪浮世絵美術館などの所蔵元より唯一認定された公式レプリカとなる。

 第3章では、こうしたDTIP技術を活用し、岩松院本堂天井絵「鳳凰図」を実物大で再現したマスターレプリカを見ることができる。原作にある凹凸や筆致、色調などが正確に再現されるいっぽう、経年により原作のパネルに生じた割れ目やズレまで忠実に反映されている。

岩松院本堂天井絵「鳳凰図」(マスターレプリカ、部分)
岩松院本堂天井絵「鳳凰図」(マスターレプリカ、部分)

 本作に関する記録調査やデジタル化の過程において新たな事実も発見。こうした事実は第3章で確認することができる。

 例えば、旧暦の4月8日、つまり「降誕会」(仏陀の生誕日)の近くの夕方には、夕陽が岩松院本堂に差し込み、天井絵の鳳凰図は反射体へと変貌し、金銀に光り輝く。これは偶然ではなく、仏教では日没を拝み観想する「日想観」に基づき寺院が築寺されていると考えられる。また、天井絵の線描には光を反射しやすい油煙墨が使われており、これも北斎が反射により光ることを想定して作品を仕上げたと推測されている。

岩松院本堂天井絵「鳳凰図」(マスターレプリカ、部分)
岩松院本堂天井絵「鳳凰図」(マスターレプリカ、部分)

 天井絵の周囲の背景部分は、下塗りに近い状態で仕上がっている。同作の線描下絵にある記述や、ボストン美術館所蔵の北斎による「鳳凰図屏風」に散らされた金箔からは、この天井絵はおそらく、もう1層上に塗る予定であり、じつは未完成だったことが推測される。

 こうした北斎が本来目指したであろう推定完成復元版天井絵「鳳凰図」が、第4章の3Dダイブシアターで展示。5面に投影される映像によって岩松院本堂を再現し、江戸時代にタイムスリップしたかのような空間では、鳳凰図の顔料・箔が光の反射によって変容し、170年以上の時を経て完成した姿が体感できる。

3Dダイブシアターでの展示風景より、「大鳳凰図転生物語」(スチール)
3Dダイブシアターでの展示風景より、「大鳳凰図転生物語」(スチール)

 そのほか、本展では北斎の肉筆画2点のマスターレプリカや、北斎が生涯で描いた4つの鳳凰図の関係性について説明するパネル、岩松院本堂再建の際に世話人を務め、北斎に天井絵の制作を依頼した髙井鴻山や、舞台となる小布施、そして岩松院について紹介する動画なども展示。多様な資料を通し、当時北斎と小布施の人々が目指していた世界を堪能してほしい。

編集部

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