名古屋城から熱田の堀川沿いを舞台に、新たな現代美術とメディア・アートのイベント「ストリーミング・ヘリテージ|台地と海のあいだ」がスタートした。
このイベントは、名古屋の観光や文化資源をひと続きに結んでいる堀川沿いの流れ(ストリーム)に現代美術で光をあて、その歴史・文化遺産(ヘリテージ)をリアルタイムに再生(ストリーミング)する、というもの。
3月28日(期間中の金土日に開催)まで行われている本イベントでは、さわひらき、佐藤美代(音楽:BONZIE)、井藤雄一、平川祐樹、Barrack(近藤佳那子・古畑大気)+阿野太一の作家5組が現代美術作品を展示。加えて、日栄一真+竹市学によるパフォーマンスや、バスを改造した移動型のミュージアム/ラボラトリーで今回はインフォメーションとなるMOBIUM、グランドレベル(田中元子+大西正紀)によるイベント「パブリックサーカス」、五十嵐太郎と市原えつこを招いたシンポジウム、トークイベント、マルシェなど多彩なプログラムが開催される。
おすすめの鑑賞ルートは、熱田・宮の渡しエリアから納屋橋エリア、そして名古屋城・朝日橋エリア。開催日に限り、これらのエリアをつなぐ船が堀川を運行する。
熱田神宮から徒歩約15分の宮の渡しエリアに位置する、かつて東海道の宮宿で旅籠屋として使われていた「丹羽家住宅」では、Barrack(近藤佳那子・古畑大気)+阿野太一と平川祐樹の作品を展示している。
かつて瀬戸電気鉄道(現在の名古屋鉄道瀬戸線)を通じて堀川に運ばれ、堀川の船によって国内各地や世界へと輸送された瀬戸の陶磁器。瀬戸市に拠点を持つBarrack(近藤佳那子・古畑大気)と写真家・阿野太一のコラボレーションでは、陶磁器輸送に大きく貢献した瀬戸電気鉄道と、水運のターミナル駅があった堀川の関係に焦点を当てる。ウィーンやパリの万国博覧会で高い評価を得た瀬戸染付焼をとらえた写真作品とカフェバーを展開することで、瀬戸と堀川、宮宿の歴史の一端を読み解く。
丹羽家住宅1階の展示スペースでは、平川祐樹の映像作品を上映。メディア考古学的な視点を通じ、場所や事物に宿る「時間」や「記憶」を表現する映像作家・平川は、行方不明となっている戦前日本映画のシーンを再現し、場所や物にまつわる記憶や失われていた歴史を呼び起こしている。
宮の渡しから船に乗って納屋橋に進もう。堀川の掘削とともに架けられた納屋橋周辺では、佐藤美代(音楽:BONZIE)、井藤雄一、さわひらきの映像作品が夕方から上映。建物の壁面や橋脚に出現した映像は都市空間と交差し、非現実的な光景を映しながら新たな世界をつくりだしている。
続けて名古屋城・朝日橋エリアに進むと、3月20日にはテクノロジーによるサウンド表現の可能性を追求し作品制作を行うサウンド・アーティストの日栄一真と、能楽師藤田流笛方として世界各国で活動している竹市学による一夜限りの映像とサウンドのパフォーマンス、五十嵐太郎と市原えつこによるシンポジウムが名古屋城の二之丸広場にて開催。いずれも後日映像アーカイブとして配信予定となっている。
名古屋城と港をつなぎ、そして歴史と現在をつなぐという役割を果たす堀川。現代美術やメディア・アートを楽しみながら、名古屋独自の文化・歴史を堪能したい。※次回は2021年11月頃の開催を予定している。