1981年南仏に生まれ、現在ロサンゼルスを拠点に活動するアーティスト、クレア・タブレの日本初個展「LOCKDOWN SELF-PORTRAITS」が、11月19日に六本木のペロタン東京でスタートした。
タブレは、これまで空想上の友達から実際の友達を対象に、ふたり以上の人物らの関係性に焦点を当てた作品を多数制作してきたが、新型コロナウイルス感染拡大に伴う都市封鎖による孤立感という現状を受け、自分自身を被写体とし、自ら内側を向いた作品を制作。本展では、こうした都市封鎖のなかで制作された、自身の個人的な姿を描いた新作セルフ・ポートレイトのペインティングとモノプリントシリーズを発表した。
展覧会の開幕にあたり、来日が叶わなかったタブレはZoomを通じてこう語っている。「今回の『Self-portraits』というテーマは、ロックダウンという状況と深く関係している。社会から孤立された状態が続いているなか、アーティストとしては絵を描きたいという欲望はつねに存在している。世の中はあまりにも不安定なので、唯一確実だと思えるのは自分という存在だ。また、アートのエッセンスとは何だろうかと考えたときに、自己表現が非常に重要なことだと思って、自分自身を描き始めたのも自然なことだった」。
タブレの作品に登場する人物は、確たる自信を示すために、化粧やコスチュームなどで特定部分を隠すことが多い。今回のセルフ・ポートレイトでも、これらの「鎧」の役割を果たす要素が複数の作品で見られている。
例えば、厚手のバスローブやフード付きのスウェットシャツといった、今回の新作に繰り返し登場するモチーフは、家庭的な暖かさや安堵感を示しているいっぽうで、これらを羽織ることは、避難所としての役割を果たし、「消えてしまいたい」という作家の衝動を表現している。
赤いストライプのバスローブを羽織っているタブレが愛犬のジョージを抱く様子を描写した《Self-portrait with George(stripes)》(2020)では、ボディーランゲージなど非言語的なコミュニケーションを通じて愛情や暖かい感情を表現するという人間と動物との関係性を示す。
いっぽう、新作のモノプリントシリーズは、ガラスの板にインクを用いて描画し、その上に紙を載せてイメージを紙へと転写して制作されたもの。この制作プロセスを繰り返すことで、描かれた絵には直前の絵の「残像」が生みだされる。
タブレによると、これらの作品はすべて直前の作品への反応であり、モチーフの繰り返しが展覧会全体にジャズの即興演奏のような音楽的なリズムを生みだすという。「モノプリントの特徴としては、遊び心があり、作品をつくるときにたくさんの偶然性が生じることもある。シンプルな技法でありつつ、表現としての可能性が無限大だと思う」。
また、今回の新作には蛍光色も繰り返し用いられている。それについて、タブレはこう説明している。「蛍光色は、自然や人間の体にない、人工的につくられた色なので、夢のなかや空想の世界とリンクしているような雰囲気がある」。
コロナ禍による世界情勢の不確実性を受け、自分自身にふたたび向き合ったクレア・タブレ。その世界をぜひ会場で堪能してほしい。