16の国と地域から100人の写真家の「好奇心」から生まれた写真作品が集結する展覧会「東京好奇心 2020 渋谷」が、10月20日に東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開幕した。
「写真という表現媒体を通じて社会のために何かできることはないか?」という思いから組織された活動体「NPO東京画」は2018年、「東京好奇心」プロジェクトを立ち上げ。18年秋と19年春にパリとベルリンで同名の展覧会を開催し、今回はその集大成を出発点である東京で実現した。
本展では、「IDENTITY」「DIVERSITY」「TIMELESSNESS」「HERE AND NOW」といった4つのキーワードをもとに、それぞれの写真家が独自の視点で、つねに変化し続けてきた東京やそこで暮らす人々の姿をとらえた約200点の写真を展示。キュレーションを担当したNPO東京画のコミッショナー・太田菜穂子は開幕にあたり、次のように語っている。
「自分がどう思うのか、どうやって生きていくのか、このようなことに素早く反応するのはアーティストです。彼らはもっともアイデンティティを確立したいと思っている人間なので、ダイバーシティを認めます。そしていろんな他者がいるからこそ、自分が際立つということをよく知っています」。
こうしたアイデンティティや多様性をテーマにした写真は会場の最初に並ぶ。衣装を整えた公家と武家の貴族を撮影したエバレット・ケネディ=ブラウンの「Japanese Aristocrats」シリーズをはじめ、「IDENTITY & DIVERSITY」の章では13人の写真家は被写体となった人々と向き合い、様々な文化や歴史、価値観、ライフスタイルをポートレート写真で表現している。
会場はプロローグとエピローグを除いた13章で構成。そのうち「TIMELESSNESS」と題された章は7つにおよぶ。こうした構成について太田は次のように話す。「本展でもっとも重要なテーマは『TIMELESSNESS』です。私たちはいまの時代を生きているなか、いろんなかたちで過去、現在、そして未来とつながっています。『時代を超えていく』とは何だろうかということを考えながら、『TIMELESSNESS』を本展の中心にしたのです」。
例えば、「TIMELESSNESS」の第1部である「永遠の時間への遡行 〜東京へのオマージュ〜」では、東松照明が敗戦国となった戦後の日本社会でのパワーバランスをとらえた写真や、マーク・リブーが奇跡的な復興を成し遂げていく人々の姿を写した写真、そして稲越功一、細江英公、森山大道、立木義浩、サラ・ムーンがとらえた、時代とともに姿が変化していく東京の写真を展示。時間を超えて受け継がれる価値観や思いを物語っている。
「忘れてはいけない時間 〜平和への祈り〜」では、クー・ボンチャンと土田ヒロミによる戦争の惨禍をテーマにした4点の作品を展示。原爆投下時刻の8時15分を指す懐中時計、その日の空腹を満たすはずだった弁当箱などは、戦争のなかで生命を失った人々の「止められた時間」を伝える。
人々の精神に息づき、生活のなかで育まれる日本の美意識を探る「花鳥風月 2020」では、ガラス板陰画を黒ベルベットの上に置くことで陽画を浮かびあがらせる菅原一剛の「TSUBAKI」シリーズや、夏と冬の森の営みをあたかも神の視線でとらえた瀧本幹也の「LOUIS VUITTON FOREST」シリーズ、桜を背景にしたカラスの漆黒の羽を写した宇壽山貴久子の「からす」シリーズなど、伝統的なテーマである「花鳥風月」を現代の美意識に基づいた写真で紹介している。
いっぽう「HERE AND NOW」では、「いま、ここで生きる価値」や現代社会の身体感覚と調和する価値観と美意識を探る。その第1部「“命をいただく”ということ」では、公文健太郎や渡辺一城、ステファニー・フレス、リオネル・ベガらによる、食事をめぐる様々な場面をとらえた写真を通じ、日本の食文化における食物への感謝と姿勢を紹介する。
第5部の「都市のレイヤーを切り撮る」では、原宿駅舎前で携帯電話を持つ若者の姿をとらえた鋤田正義や、都市の時間を重層的にコラージュした寶槻稔、ゆりかもめからの視界をとらえた中野正貴など18人の写真家は、東京の加速する変化のなかで生き残る風景と消え去る風景を見せる。
写真家100人の「好奇心」を通じ、東京を見つめ直し、そしてそこに生きる自分自身の存在について考えさせる本展。太田は、「本展にはいろんな時間が複数存在しています。それぞれの骨子を持つ写真家の作品に近づき、そのテクスチャーを感じていただきたいです」と期待を寄せる。