「新大久保UGO」に見る、新しいアートコミュニティのかたち

新大久保の繁華街から一本道を入った場所に、アーティストたちが共同で運営するスペース「新大久保UGO」が誕生した。

新大久保UGO

 強固な中心をつくらないアートコミュニティが、新大久保の中心部に誕生した。

 「新大久保UGO(ウゴウ)」は、多様性のある社会をアートを通して実現することを掲げ結成されたコミュニティ「UGO」が運営するスペース。UGO実行委員会は、磯村暖、海野林太郎、龍村景一、丹原健翔、中尾一平、ぱにぱにぱにぱにともちんぱ、林千歩、三好彼流、山縣瑠衣らによって構成されている。

 「UGO」の由来は「烏合の衆」。本来は無秩序な集団を指す言葉だが、UGOでは「大義名分の為に集められた集団ではなく、目的や属性がバラバラでもお互いを受け入れあってビジョンを共有してアクションを起こせる溜まり場のようなものでありたい」(『烏合読本』Vol.1の磯村暖の言葉より)という意味が込められた。

 その拠点となる新大久保UGOは、築60年の木造アパートをリノベーションした30坪のスペース。路地の両側を覆う壁画や、エントランス上部に設置された立体作品、そしてバーカウンターが特徴的な場所であり、街とつながるコミュニティという印象を抱かせる。

新大久保UGOへと続く私道。左から龍村景一《メディア1》(2020)、磯村暖の壁画、三好彼流《カル壁》(2020)
エントランスすぐにあるのは海野林太郎・中尾一平の《バー「ダイナソウ」》(2020)
エントランス上部には磯村暖の作品

 新大久保UGOのオープニングを飾るのは、多種多様なアーティストたちによる、「UGOから見える景色」を体現した展覧会「We (You) are Beautiful!」だ。丹原健翔がキュレーションを担当し、青木美紅、AHMED MANNAN、荒渡巌、磯村暖、海野林太郎、Elliott Jun Wright & Michelle Ceja、大木裕之、龍村景一、中尾一平、花崎草、Nimyu、林千歩、三好彼流、MES、山縣瑠衣、郭青泉が参加している。

展示風景より、左から三好彼流《足》(2020)、林千歩《おしゃれ虫》(2019)、
《BL(バードライフとボーイズラブ)》(2015)、《崖の上のティボリ》(2016)、AHMED MANNAN《犬犬、植物ぱーてぃ》(2020)

 丹原はこの展覧会についてこう語る。「これからこのスペースがどうなるかはメンバーですら完全には理解していないですが、方向性としてはハッキリしたビジョンがある。それは、いろんな個性が尊重されるだけじゃなく、それが『いいもの』として理解される場所。今回の展覧会もすごく個性があるアーティストに声をかけ、それぞれの自分らしさが全面に出ている展示にしたいと考えました。それぞれがビューティフルな個性を持っていて、みんなでビューティフルなものをつくっていこう、という思いを込めたのです」。

展示風景より、Nimyu「不透明の波」シリーズ(2020)
展示風景より、奥左から龍村景一《無頭人より》(2020)、Elliott Jun Wright & Michelle Ceja《2020 ∞》(2020)、林千歩《おしゃれ虫》(2019)。手前左からMES《Unidentified Floating Objects -JAPANESE》、《Unidentified Floating Objects -ENGLISH》(ともに2020)、三好彼流《足》(2020)

 丹原はキュレーターでありながら、強力なキュレーションによって展示をつくるのではなく「あくまで交通整理のような役割だった」という。「いま、ここから新しいムーブメントが起きるんだよということを見せたかった。いままでのギャラリーやアートシーンだと評価されなかったようなアーティストの面白さに気づいてもらいたい、という思いでした。みんなで一緒に話し合いながらつくったし、UGOは誰もが意見を言えるような場所。展示である前に、コミュニティのハブであるという意識を持ってやっています。それがいまのアートシーンに必要なものだと思うのです」。

 UGO実行委員会のひとりであり本展参加作家の林千歩も、「「若い世代のアーティストが気軽に集まれる場所はなかなかないので、とても意味のある空間だと思います。誰かひとりだけのための場所、ということではなく、一人ひとりが成長していって、そんな人たちが集まれる場になっていくのが理想的です」と今後の可能性に期待を込める。

展示風景より、左から郭青泉《Sofia》、《Flied with the smell of expired》、三好彼流《ベラルージュ》(いずれも2020)

 UGOを立ち上げるきっかけをつくったひとりである磯村暖は、この場所の未来について「勝手に多様な意見にあふれる場所にしたい」と話してくれた。「ヒエラルキーに躊躇して、暴力を恐れて自分の意見も言えないようなこともあるなか、ここではそういうことがないようにしたいんです。僕の思う多様性を主張するのはなく、みんなが思う多様性を噴出させるような場所にしたい。多様性に対して責任を持つことも大事で、どんなふうになったとしても、揺るがずにやっていきたいです。みんな仲良く、元気に」。

 アーティストの展覧会やイベント企画のほか、大久保町を中心とした地域活動を行っていくハブとなることを目指す新大久保UGO。今後どのような存在になっていくのか注目したい。

編集部

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