学校教育から美術館でのプログラムまで様々な事例を紹介した美術手帖2月号「みんなの美術教育」特集では、巻頭企画として、誰でも・どこでも参加でき、「作品を上手につくることを目指さない」誌上授業を掲載した。ディレクションを担当したのは地域社会を巻き込む実践などで注目を集める、現役中学校教諭の田中真二朗だ。
4月20日、東京・外苑前の京都造形芸術大学・東北芸術工科大学・東京芸術学舎 外苑キャンパスにて、この「世界の新しい見方を発見する 誌上授業」を、田中教諭による授業形式で実際に受講できるワークショップが開催。6歳の小学生から大人までが参加し、課題に挑戦した。
この日取り組んだのは、誌面に掲載された5つの課題のうち、「別の惑星の文字をつくってみる」「紙1枚で気持ちを表現してみる」の2つ。田中教諭による導入ののち、参加者とのやりとりを交えながら、アットホームな雰囲気で制作が進められた。
「別の惑星の文字をつくってみる」は、アルファベットやひらがななどを自由に再構築して、ある意味を表すオリジナルの文字を新しくつくる課題だ。まずは、田中教諭がこの授業を発想したきっかけだという、異世界の不思議な文字が登場する、絵本作家ショーン・タンによる作品を紹介。「平和」を表現する世界の文字を見て文字の形や仕組みのバリエーションを実感したあと、「へいわ heiwa」の文字が印刷されたワークシートを切り貼りして、思い思いに「平和」を表現する文字を制作した。
田中教諭はこの課題について「文字を扱う授業で定番の『レタリング』をただ長時間行うより、文字の機能や意味について楽しみながら発見できると思い、考えました」と語った。中には、文字同士をつなげ、立体作品をつくった参加者も。作者は「パーツ同士が微妙なバランスを保ってつながっている様子で、平和の危うさや難しさを表現した」とコメント。田中教諭も「学校での授業を含め、こういった作品が出てきたのは初めて! 私自身が一番びっくりしました」と驚いた様子だった。
「紙1枚で気持ちを表現してみる」は、コピー用紙だけを使ってできる表現の幅広さを知る課題だ。まず田中教諭が取り出したのは、しわしわにする作業を繰り返し、布のような感触になったコピー用紙。触った参加者たちからは驚く声があがった。次に、実際に素材となるコピー用紙を触りながら、最近印象に残った出来事をきっかけに「表現したい気持ち」を決め、そのイメージに近づけていく。
できた作品は幾何学的なパターンを使ったもの、動植物のようなものなどバリエーション豊か。最後は7色に光る「デコデコLEDライト」(提供=美術出版エデュケーショナル)を使い、できた作品をライトアップして、お互いの作品を鑑賞した。光を当てることで作品の見え方が大きく変化する様子に、歓声があがった。
今回のイベントには、自分でもワークショップを主催することがあるという美術関係者から、図工が好きな親子までが参加。世代もバックグラウンドも様々だが、積極的に手を動かし、話し合いながら制作していた。田中教諭は「誌面では『世界の新しい見方を発見する』というタイトルでしたが、この体験で日常生活での視点が少し変わったり、何か発見することができれば」と語った。
(このワークショップで行った課題は、『美術手帖』2月号に掲載。)