東京におけるデジタルクリエイティブ創造拠点として2022年10月にオープンした「シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]」で、MPLUSPLUSによる展示「Embodiment ++」が開かれている。会期は11月19日まで。
MPLUSPLUSは、2013年から活動を続けるクリエイティブ・チーム。演出家、振付師、サウンドクリエイター、エンジニアらが集い、オリジナルプロダクトによるパフォーマンスを繰り広げてきた。チームを率いる藤本実の案内を得ながら、会場をめぐった。
展示は大きくふたつに分かれる。まずエントランスとスタジオAでは、今年活動10周年を迎えるMPLUSPLUSのオリジナル・プロダクトが紹介される。EXILEやAKB48をはじめ、多くのエンターテインナーたちのパフォーマンスを演出するMPLUSPLUSは、身体に装着できる小型の無線制御デバイスとオリジナルLEDなどをそのつど独自に開発してきた歴史を持つ。代表的なプロダクト約10種が会場には並ぶ。
藤本実は本展が目指すところについて、次のように語った。「数多くのLEDを制御できる小さくて軽い無線デバイスやオリジナルのLEDを開発したことによって、それをフラッグや法被に取りつけることができるようになったりと、技術が進展するにつれ私たちが提供するパフォーマンスの可能性も大きく広がっていきました。私たちとテクノロジーの10年間の歩みを体感していただけるような展示構成になっています」。
プロダクトのうちで最新のものは、エントランスに鎮座する《LED VISION DRONE》。縦6.8メートル、横2.6メートルの中に17280個ものLEDを搭載した布ディスプレイで、ドローンに吊り下げ宙空へ浮かばせることができるものだ。
展示のもうひとつのターンでは、オープンスペースとスタジオBに、パフォーマンスロボット群が展開されている。
新作《Unknown Rhythms ― Humanized Clock》は巨大な時計のかたちをしており、ふだんは現在の時刻を示しているが、45分おきの上演時間になると音楽が鳴り響き、長短針が高速で動き出す。大きな時計による圧巻のダンスパフォーマンスを見るかのようだ。楽曲提供はサウンドプロデューサーのケンモチヒデフミが担当している。
本作のコンセプトについて、藤本は次のように込めた思いを説明した。「私たちのチーム名称に入っているPLUSPLUS(++)とは、プログラミング用語で『増加する』『アップデートする』を意味します。これにちなんで今回の展示では、身体性をPLUSPLUSすることをテーマに掲げました。《Unknown Rhythms ― Humanized Clock》は、人間の身体と似たサイズのものに圧倒的な動作をさせたら、どんな表現が可能になるかを探求してつくりました」。
そもそも、なぜ藤本はこうした行為を時計にやらせるのか。「音に反応して高速かつ滑らかに動くロボットを目の当たりにすれば、人間の動きの質を高めるヒントが得られるんじゃないか、身体の拡張につながるんじゃないか、と考えました。私自身もダンサーなので、こうした人間の能力をはるかに超えるロボットの動きには、強くインスパイアされます。高速でバラバラに、それでも調和して動く長針と短針を見ると、自分も右腕と左腕をもっと素早く、かつ別々の動きをさせられないものか……といったチャレンジをしたくなるんです」。
暗転させたスタジオB内にある《Morphing Elegance ― Robotic Choreographer》は、ロボットアームを持ったパフォーマンス専用ロボットだ。1秒間に最大5回転という超高速によるパフォーマンスを繰り広げることができる。「こちらは5年前に発表した作品の改訂版。人間の目で追えないほど高速で動くのですが、そのダイナミックな動きのなかに、なめらかさと優雅さを感じられるよう動きを探求してみたものです」と藤本。
同じくスタジオB内には《Vitality of Light ― Light-emitting Existence》も置かれている。ロボットアームの先端にLEDをひと粒つけたリボンが結ばれており、暗がりでアームが高速で動くと、光の粒がまるで意思を持って踊り回っているように見える。
「光に動きを与えてみたい、という発想からつくった作品です。布をあいだに挟むことで、ロボットを直接光らせたときの直線的な動きではなく、光が風を受けなびいているように柔らかで有機的な動きを実現しました」と藤本。こちらの作品も身体表現の拡張を試みたものだと言う。
「人間の動きをひとつ上の段階へ持っていけないかという試みです。なびく光を美しいと感じ、この光といっしょに踊るにはどうしたらいいか、などとイメージを膨らませることによって、人は新たな身体表現を生み出せるようになるかもしれない。人は頭に思い描けたことしか実現できませんから、いいイメージを想起できる体験をすることは重要です。これらの作品を通して、これまで気づきもしなかった動きの原理を発見したり、新しいものの見方を得てもらえたら」。
「テクノロジー」「光」「動き」にまつわる藤本実の長年の探究を追体験できる格好の機会。実物を目にして、その動きを肌で感じるためにも、この秋、CCBTに足を運んでみてはいかがだろうか。